note.110 SIDE:G

 帰ってすぐに一通りやるべきことを済ませたら、早速HXTにログインする。
 見慣れたアミリアとは違う賑やかな人通りに、思わず面食らってしまいそうになるけど、ここは王都ユークスだ。

 さて、パーティーチャットは……あれ、今日はまだ誰もログインしてないみたいだね。
 ミスティスもオフラインだし、オグ君たちもまだみたいだ。
 まぁ、今日やりたいことはどのみち一つだし、みんなが揃うまでの暇つぶしついでにでも、一足先に予定通り王立図書館でいろいろ調べてみるのがよさそうかな。

 と、ひとまずは近くの案内板とシステム側のミニマップを頼りに王立図書館を目指すことにする。
 えーっと……どうやら図書館は西側の貴族街にも程近い、街のほぼ中央付近にあるみたいだね。
 なるほど、中央付近はストリームスフィアを中心に街のあらゆる人が便利に使えるように、図書館の他にも王立学校や、王立騎士団や衛兵の詰所、冒険者区である東側にある冒険者ギルド以外の各種商工ギルドの本部なり支部施設とか、この世界なりの「公共施設」に類するものが集まっているらしい。
 ふむふむ……まぁ、ストリームスフィアで中央に飛ぶのが手っ取り早いけど……別にそこまで急ぐようなことでもないし、せっかく初めての王都だし、ちょっとした物見遊山のつもりででも、歩いていってみようかな。
 目の前に伸びる中央通りを真っ直ぐ行くだけだ、下手に脇道に逸れたりしなければ、迷うなんてこともあり得ない。
 うん、よし、そうしよう。

 そうと決まれば、早速中央通りを西に向かって歩いていく。
 途中、適当にウィンドウショッピングを楽しみながら、のんびりと歩く。
 当然だけど、アミリアと比べるとやっぱり一つ一つのお店の規模からして大きいところが多いなぁ。
 最初の内は武器屋防具屋とかポーションなんかが中心の雑貨屋とか冒険者向けのお店が多かったけど、中央に近づくにつれて、食料品店や服飾店とか庶民向けの魔道具屋とか、雑貨屋も日用品が中心のお店だったり、この街に住む人向けのお店が増えていく感じだね。

 そんな品揃えの変化なんかも楽しみつつ進んでいると、ふと前方に見知った人影を見つける。
 わかりやすく黒い影とわかりやすく青い影……うん、天地さんと雫さんだね。

 そういえば……と、思い至る。
 あの二人……特に、常日頃神器を追って情報を集めてる天地さんなら、件の疑問――このゲーム内に存在するかもしれない「黄昏の欠片」に関しても何か情報を知っているかもしれない。
 逆に、あの二人に聞いて知らないとなれば、まぁ僕の根拠も何もない直感なんてやっぱりアテにはならなかったってことでいいんじゃないかな。
 うん、物は試し、元よりダメ元だ。
 とりあえず、特になんてこともなく単に雑談中って感じだし、件の話は置いとくにしても、挨拶ぐらいには声をかけておきたいしね。

「天地さん、雫さん、おはようございます」
「おーぅ、やぁやぁおはやうおはやう」
「……マイスさんでしたか。おはようございます」

 ちょっとまだ僕から声をかけるには緊張しちゃうところがある二人だけど……なんとかどもったりせず挨拶できて、内心胸をなでおろす。

「ほぅ、あれからもうここに来てるってことは、早速情報収集かぇ?」
「あ、はい。ちょうどこれから図書館に行ってみようかなと。あーあの、それでそのことで、ってわけでもないんですけど、ちょうど天地さんと雫さんに聞いてみたいことがありまして」
「おーいぇ、なんぞい?」
「……わたしにも……ですか?」

 思わず早口になっちゃってたし、話の流れもちょっと強引だったかなぁ……なんて今更な焦りを感じつつも、言ってしまったからにはもう後には引けない。

「えぇっとですね……その、『黄昏の欠片』、という単語に聞き覚えはありませんか?」

 少し躊躇いがちになってしまいつつも、それでも思い切って口にする。
 それを聞いた二人は、しかし、僕の予想を外れて驚いたように顔を見合わせた。

「『黄昏の欠片』……っつーと……」
「……わたしの……この子のこと、ですね」

 そう言って雫さんが指したのは、その背に背負った純白の十字架。
 あれ?でも……

「その武器の名前って『慈愛の裏十字』じゃなかったっけ?」
「……いえ、実は……『慈愛の裏十字』や『恩寵の逆十字』というのは、それぞれの形態……武器としての『使い方』に対して付けられた名前なんです」

 あまりアイテム説明文を不特定多数には見せたくないのだろう、ちょうど壁際にいた雫さんがウィンドウを可視化モードにすると、天地さんが僕も壁際まで回り込むよう、ちょいちょいと手招きする。
 可視化モードと言っても、ウィンドウの裏側からは不透明だからね。
 壁際にいれば、後ろから覗き込まれるようなことは防げる。

「……本来のアイテム名としてはこの通り、〈黄昏ノ欠片〉です」
「……!!」

 雫さんが見せてくれたアイテム詳細の説明文に息を呑む。
 そこに記されていたのは確かに、〈黄昏ノ欠片(Light of Twilight)〉というアイテム名。
 そして、アイテムの説明文には「鈍器形態『慈愛の裏十字』、長杖形態『恩寵の逆十字』、――」と続く一文。
 本当にあった……それも、こんなにもあっさりと……。

「そんで、こいつは明らかに俺のこいつ……〈闇ヨリ深キ漆黒〉と対存在でもある」
「えっ?」

 と、続けて天地さんから見せられた詳細ウィンドウに表示されたのは、彼の代名詞とも言える漆黒の剣の説明文。
 記されたアイテム名は〈闇ヨリ深キ漆黒(Dark more Darkness)〉……。
 〈黄昏ノ欠片(Light of Twilight)〉と〈闇ヨリ深キ漆黒(Dark more Darkness)〉……なるほど、見事なまでに対照的なネーミングだ。
 改めて両者を見比べてみると、金属光沢を放っているように見えながら、まるでそこだけテクスチャが白く抜けてしまっているかのような違和感のある〈黄昏ノ欠片(Light of Twilight)〉。
 対して、巨大な水晶の塊を割り砕いた破片から柄だけを削り出してそのまま剣にしたかのような質感と光沢があるのに、まるでそこだけディスプレイの電源が落ちてしまっているかのような違和感のある黒色の〈闇ヨリ深キ漆黒(Dark more Darkness)〉。

「確かに、対の存在に見えますね……」

 だけど……そうすると、また新たな疑問が湧いてくる。
 「黄昏の欠片」と「闇より深き漆黒」が対なら、リアルの方にも何かしらの形で「闇より深き漆黒」という単語が現れている……?
 でも、今のところリアルでそんな話は聞かないし、九条君たちも「闇より深き漆黒」には言及してないから、みんなも知らなさそうだし……。

「で、どこでこの情報を?」

 あー……まぁ、そりゃあそういう話になっちゃうよね……。
 ど、どう説明しよう……。

「えぇっと、それが……その、多分今からすごい突拍子もない話をすると思うんですけど、出来ればあんまり笑わないでもらえますか」
「? お、おう」
「……えぇ、はい、大丈夫ですよ」
「それじゃあ……その、僕の、リアルの方で、『黄昏の欠片』っていう名前が出てくる噂が流れてるんです。それも、オカルトとか都市伝説みたいな内容の」
「お、おう……?」
「……はぁ」

 笑われはしなかったけど、まぁ、うん、そりゃ普通に混乱はするよね。
 ゲームのアイテム名でしかないはずの名称が、自分の与り知らぬところで内容も定かではない噂として広まってるなんて、僕だって当事者でなかったらきっと何を言われているのか理解できなかったと思うし。
 ともあれ、友人が趣味でそういった噂を集めている中で発見したこと、別の友人にそれを話してみたらファンタジー世界のキーワードみたいという反応をされてダメ元で聞いてみたことをかいつまんで話す。

「なる、ほど、ねぇ……。ん〜ん……これはー……雫のログアウトを解決する手がかりの一つ……なのかねぇ?」
「……どうなんでしょうか……? ……何分、皆さんの言う『リアル』という世界について、思い出せることがまだないもので、わたしからは何とも……」
「せやろなぁ。まぁ、こんだけ綺麗に名前が一緒だし、少なくとも全くの無関係じゃなかべぇよ」
「僕もそう思います」

 どうやら、天地さんは僕のリアルの話というよりも、純粋に雫さんをログアウトさせる方法のための手がかりと受け取ったみたいだね。
 思った以上に僕の話を真剣に聞いてくれていた。

「……実のところ、わたしがどうしてこれを持たされているのかも、現状いまいちよくわかってないですからねぇ……」
「というと? どこかのレアドロップとかそういうのじゃないの?」
「……えぇ、この子は……わたしが初めてこの世界で目を覚ました時に、最初からアイテムパックにいたんですよね……」
「ぶっちゃけるとうちもこやつをいつ手に入れたのかさっぱりわからんのよ。気付いたらインベに入ってたんよな……。最初はなんかのバグかと思って報告もしてみたんだけど、調査の結果正常ですってテンプレで返ってきたもんだから、まぁそういうもんかと思って普通に使ってるっていうね」
「えぇ〜……」

 う〜ん……話が進めば進むほど、むしろ謎ばっかり増えていくねぇ……。

「ん〜ん……まぁちっとさすがにこれだけじゃなんもわからんねぇ……。とりあえずその噂とやらが雫に関わってる可能性は多分結構高そうな予感が無きにしも非ずだから、またなんかあったら教えてくれると助かる」
「了解です」
「……よろしくおねがいします」

 まぁ、さすがにまだわからないことが多すぎて何も言えないよね。
 でも、どういうわけかはわからないけど、このゲームの中にも「黄昏の欠片」が存在している、ということはわかった。
 となれば……雫さんの武器以外はどうだろう?

「ちなみに、他に何か『黄昏の欠片』に関係ありそうなものってゲーム内にありますかね?」
「他なぁ……。あー……『黄昏の欠片』そのものじゃないけど関係がありそうなのは、この世界の『創世神話』かのぅ」
「そ、創世神話ですか……話めちゃくちゃでかくなりましたね」
「んむ。確か、この世界が創られる時に最初に生まれた『原初の光』のことを別名『黄昏』と呼んだはずだ。言うてうちも一度は調べた線ではあるけど、うちはその噂の内容を知らんわけだから、マイスならうちが見逃したような手がかりも見つかる可能性はあると思うぜ。まぁこれから図書館行くんなら、ついでに調べてみりゃいいんじゃないすかね」
「な、なるほど、ありがとうございます。早速行ってみてきます」
「おういえあ。成果を期待しておくぞよ」
「……それでは……ごきげんよう」

 情報にお礼を言って、天地さんたちと分かれる。
 創世神話かぁ……なんか一気に話のスケールが大きくなったなぁ……。
 それに、「欠片」じゃなくて「黄昏」かぁ。
 どこまで関係してるかはわからないけど……少なくとも何かしらの関わりはありそうって感じだね。
 調べてみる価値は十分ありそうだ。

 さて、となれば……まずはいよいよ、王立図書館だね。
 それじゃあ、行ってみようか。


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