note.112 SIDE:G

「ふぅ……」

 ひとまず開いていたページを読み終えて一息つく。
 柔らかな木漏れ日が差し込む窓際の席。
 ふと外に目をやれば、ちょうど飛んできた小鳥が一羽、枝に止まって「ピチチ」とさえずる。
 一つ大きく伸びをすると、ちょうどミスティスが通りがかった。

「あ、それ、創世神話?」
「あ、うん、そうだよ」

 そういえば、ミスティスにはまだ「黄昏の欠片」のことは言ってないっけ。
 ミスティスも雫さんの件については知ってるわけだし、話しておいて損はないだろう。

「ちょっと、気になる話があってね。――」

 と、リアルのことも含めて、「黄昏の欠片」についての一通りを話しておく。

「『黄昏の欠片』……なるほど、それで創世神話の『黄昏』ね」
「うん」
「その都市伝説みたいなのはちょっとすぐには信じづらいけど……雫のことにもなると、何があってもおかしくないし、ひとまず信じるよ。こんだけぴったり同じ名前なんだから、絶対なんかあるよね」
「ありがとう。だと思うんだけど、これだけじゃまだなんとも言えなくて……」
「まぁ、そーだねぇ。とりま、今は手がかりその1ってことで覚えとくぐらいでいんじゃないかな〜。雫のことにしろ、その噂?のことにしろ、両方一歩ずつ前進ってことじゃん。神器探しのコツもそうだけど、こーゆーのは焦らず着実に外堀から埋めるのが一番だからね!」
「それもそうだね。この情報だけで焦っても何も出てこないか……。ありがとう。急な進展でなんか変に焦っちゃってたかも」
「うんうん。情報収集は焦ると見えてるはずのものまで見落としちゃうからね〜。落ち着いて、ゆる〜くやればいいんだよ。リラックスリラックス」

 いつも通り勝手に納得したように頷いて笑うミスティス。
 それはそうと……

「ところで、ミスティスの方は何か見つかったの?」
「ん〜……残念、1stで使えそうな情報は少し見つけたんだけどね〜。現状でマイスと行けそうな感じのやつはちょっと見つけられてないかな〜」
「そっか。今の僕たちじゃ、やっぱりまだLvが低いからねぇ」
「まぁそれは正直あるねー。フツーに考えたら、神器なんてゴタイソーなシロモノ、廃Lv向けのエンドコンテンツって感じしかしないもんね〜。ま、それこそこないだのエニルム3Fのこととか、探せば今の私たちでも使える情報はないわけじゃないから、がんばって探そー」
「だね」

 まぁ、そうだよねぇ……。
 神器だなんて、明らかに公式チートっぽさ漂うレアアイテム、それも、トッププレイヤーである天地さんをして未だに見つけられていないような代物だ。
 まだまだ、最初の上位職にすら到達していないような初心者状態の僕たちに、触れられるような情報がそうそうあるとも思えない。
 一方で、ミスティスの言う通り、エニルム3Fの件とか、僕たちLvでも確かめられそうな情報もないわけじゃないから、諦めるのもまだ早いか。

「さてと。じゃあ、次の本を探そうかな」
「私も次はこの辺漁ってみよっかなー」

 と、創世神話の本を元に戻しつつ、二人して次の本を探す。
 う〜ん……じゃあ次は、もっとこっちの方の本から……と、書架の奥側、例の扉がある壁に近づくと――

『――……て…………すけ……助けて……』
「えっ!? 何?」

 声!?
 しかも、なんだか頭の中に直接……!

「えっ? どうしたの? マイス?」
「なんだか、急に声が聞こえてきて……助けてって言ってる……!」
「へ? 何それ? なんも聞こえないよ? え?」
「どこから……っ!」

 声の元を辿ろうと辺りを見回して、瞬間、確信する。
 ミスティスには聞こえてなくて、僕にだけ聞こえる声……間違いない、あの壁の奥の扉だ!
 すぐに気付いて、扉の前まで行ってみるけど……ダメだ、やっぱり扉には鎖がかけられたままだし、第一、書架の裏側だ。
 だけど、扉の前に立つと、明らかに声が強くなったのがわかる。
 どうにか助けてあげたい……けど、どうすれば……?

「マイス? もしかしてさっき言ってた扉っていうのがそこにあるの?」
「うん。声もその向こうからみたい。だけどこれじゃ、どうすれば……」
「う〜ん……わかんないけど、とりあえず司書さんにでも聞いてみる? 図書館の関係者ならさすがに何か知ってるでしょ。本気で危なくて助けてって言ってるなら大事だし」
「だね。ちょっと聞いてみよう」

 早速、受付に戻って司書を尋ねる。

「あの、すみません」
「はい。ご用件は何ですか?」
「えぇっとですね、あの、奥の方の書架の裏にある扉について知りたいんですけど、何か――」

 と、僕が言い終えるより前に突然、まるで首が落ちたかのように司書の頭が不自然にカクンと俯いた。

「――えっ?」

 驚いている間もなく、直後、漏れ出たのは、声というよりも機械音声のような平坦な()

「禁忌語句を検出しました。暗示術式を起動します。警告。貴方にはその質問をする権限がありません」

 その言葉と同時に、ビクンと跳ね上がった司書の目には、不気味な紅い光が宿って――


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