note.121 SIDE:G

「それでは、講義を始めましょう。中位冒険者ライセンス概略、本日の講義は私、プエラリア・ミリフィカが担当いたします。よろしくお願いします」
「はーい!」
「よろしくお願いします」
「では、まずはそもそも『上位職』とは何なのか、というところから解説いたしましょう。――」

 ――まず前提として、この世界の生物は皆、身体を構成するエーテルを操作することで、無意識に自分の欲求に沿って身体能力を調整しています。
 例えば私たち冒険者であれば、剣を持てばそれを振るための筋力や体幹制御とか、傷つきにくく回復も早くなる肉体強度の上昇。弓や銃を持った時には弓を引いたり銃器の反動を抑える筋力や、目標を素早く正確に捉える動体視力や反射神経、姿勢制御等の強化。マジシャンやクレリックといった魔法を扱う職であれば、一度に操作できる魔力の最大許容量や操作精度の強化、体内に保持しておける魔力量や魔力の回復速度の向上、といった具合ですね。
 もちろん、その「調整する能力」それ自体も含めて、生まれ持った才能や得手不得手というのはありますが、基本的には常にある程度、身体のエーテル傾向調整によって、自身を最適化しているのです。

 そして、現在「上位職」と呼ばれている職業は、このエーテル傾向の調整をオーブによって補助、及び増幅することによって成り立っているのです。
 このシステムが確立するまでは、上位職と呼べるような力を扱えるのは、完全に生まれ持った身体能力とエーテル調整能力という二つの適性による一種の才能でした。
 わかりやすいところで言えば、上級魔法なんてものを扱えるのは、「賢者」や「大魔術師」なんて呼ばれたり、それこそ王宮で宮廷魔術師の地位につけるような、極一握りの天才に限られていたわけです。
 もっと言えば、聖術への適正なんかはそれだけで貴重でしたから、昔はクレリックの数が常に不足してて、それはもう大変でしたねぇ……。

 っと、話が逸れました、コホン。
 ともかく、そんな天性の才能でしか成し得なかった人類の能力の限界突破を、オーブの補助によって誰にでも扱えるようにしたのが現在の上位職というシステムなのです。
 とは言え、もちろんこれにはリスクが存在します。
 そりゃそうですよね、凡人の才能で可能な範囲をオーブで無理やり超越させているわけですから。
 嫌ですよねー、過剰な身体強化で肉体が崩壊とか、繊細になりすぎた魔力制御に思考が追い付かなくて暴発とか……。
 う……想像しただけで寒気が……。

 あ、失礼、また少し逸れましたね。
 ですが、心配は要りません。このリスクは克服することができます。
 その方法とはズバリ、エーテル傾向の調整に習熟して、身体能力、ひいてはエーテル調整能力そのものを身体に慣らして最適化することです。

 そもそも、戦闘をこなしたり、依頼の達成で経験を蓄積することで「Lv」が上がり、ちょっと「Lv」を上げるだけでもLv1扱いである一般人とは比べ物にならない超人的な力を得ることができる……これ、なんでだかわかりますか?
 その理由は、エーテル傾向を一つの方向に固定した状態で様々な経験を積んでいくことで、身体がその状態に慣れる……つまりは、身体能力そのものが最適化されて、特化されていくからなんです。
 身体能力が最適化されることによってエーテル調整能力も向上し、向上したエーテル調整能力によって更に身体能力が強化されて最適化されていく、この相乗効果が皆さんの身体を強くしているわけです。
 まぁ、これも実は、オーブの補助で肉体に無理が出ない程度のほんのわずかだけエーテル調整能力を常時増幅しているからこそ、そうなっているわけですが……。
 えぇ、そうです。言わば常に高地トレーニング(山籠もりで修行)を行い続けてるようなものですね。少し語弊ありますけど。

 ともあれ、このオーブによるエーテル調整能力の強化増幅に耐えられるだけの身体能力を手に入れられていること。この条件をクリアできた人に対して、オーブの機能制限を解除して、エーテル調整能力の大幅な増強を許可する、これが「上位職ライセンス」……我々ギルド内の規定で言うと「中位冒険者ライセンス」ということになります。
 はい、そうなんです。今までの皆さんの肉体には実はオーブによってリミッターがかけられていました。
 と言っても、天性の才能があって肉体が耐えられない程のブーストを自力でかけられちゃうとか、Lv1の状態でいきなり上級魔法を構築するとか、よっぽど無理なことをしない限りはまず引っかからない程度の余裕は設定してあるので、普通に真っ当に冒険者やってる範囲では気が付かないと思いますけど。
 中位冒険者ライセンスが許可されたということは、このリミッターを外して、本来であれば適性と才能がなければ到達できない上位職に相当するエーテル傾向強化に耐えられるだけの肉体を手に入れた証というわけですね。
 逆に言えば、このシステムが確立する前に上位職に相当する肩書を名乗れた人たちは、同じことを自分の能力だけでやれてしまう天才たちであったということです。
 中位冒険者ライセンスの許可が大体Lv100を超えた辺りがボーダーラインになっているのも、実はこの時代の名残だったりするんですよね〜。
 要するに、当時の凡人が努力してなれる平均的な最大値がLv100に設定されてたんですよ。
 この限界を突破できる一握りの実力者が宮廷魔術師としてもてはやされたり、勇者や英雄と讃えられたのです。
 魔物のLv判定を考えると察しがつくかとは思いますが、昔は大変でしたよー。
 ある程度魔物除けの措置はされてるとは言え、ちょっと街道を逸れるとLv4、50がウロウロしてたわけですから、街の移動も命がけでしたし、ゴブリンの群れを一人で壊滅できれば十分「腕の立つ人」とみなされてましたし。
 魔物は基本的に4〜5人のパーティーを組んで対処するものでしたね。
 ダンジョン攻略ともなると10人近いパーティーも珍しくないぐらいで、エニルム遺跡はまさにパーティーが名を上げるための登龍門だったんですよねぇ。
 そんな調子なので、人類の活動域も今よりずっと狭くて、正直神器を探すどころではなかったんです。

 まぁ、それも今となっては上位職程度は「中位ライセンス」……単なる通過点に過ぎないわけですが。
 えぇ、これは通過点に過ぎません。「中位」と称するからには更にもう一段階上、「上位ライセンス」があるに決まってるじゃないですか。
 はい、そうですね。皆さんには「エクステンドライセンス」と呼ばれているものです。

 中位と上位で何が違うのか、というお話は……またその時が来たらということで――

「――何か質問などありますか? ……ないようでしたら、本日の講義はここまでですね。中位冒険者ライセンス概略、お相手は私、プエラリア・ミリフィカでしたっ。ご清聴ありがとうございましたー」


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