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note.135 SIDE:R

 探偵部の登録の話も一段落して。

「さてっと、すっかり長話になっちまったな。そろそろ観光ツアーに戻るとするか」
「お〜!」
「観光ツアー……ですか?」

 元気よく答える楪さんに、事情を知らない竹川さんが疑問符を浮かべる。

「あぁ、楪は今日からの転校生だからな。俺たちで街案内してたのさ」
「なるほど。そう言えば見慣れない制服だと思ってました」
「ははぁ、噂の『探偵部』の先輩たちの街案内……! なんか普通じゃないところとか教えてもらえそうー!」
「まだ知られてない心霊スポットとか!」
「いやいや、別にそんなオカルトみたいな話はないし、この街にんな言うほどおかしな場所なんかねぇから! 一体俺らはどんな噂のされ方をしてんだ……」

 下級生組からの「探偵部」の認識に、九条君が頭を抱える。
 完全にオカルト研究部辺りの類縁か何かだと思われてそうだね……。

「なぁんだ、残念。いやーでも、噂の先輩たちが実際どんな街案内してくれるのかは興味が湧きますですねぇ。一緒についてっていいっすか?」
「別に期待されてるようなおかしなもんは出せないとは思うけど、ついてくる分には全然OKだぜ。正式な立ち上げは明日だから、まぁ言わば今日は仮入部ってことで」
「おぉ〜、いいっすねぇ、仮入部! 部活感出てきましたっすよ!」
「そ、それじゃあ、私たちもご一緒させてください!」

 九条君から同行のOKが出たことで、一年生二人が目を輝かせる。

「それはいいけど、あー、きゅ〜太だっけか、そっちの犬の方は大丈夫なのか?」
「あ、はいっ。きゅ〜太はこの通り、今日は元気が有り余ってますから。元々、この後は公園で思いっきり遊ばせるつもりだったんです。代わりに先輩たちと長めのお散歩と思えば全然平気ですよ。ね、きゅ〜太!」
「きゃんっ!」
「そうか。んなら問題なさそうだな。んじゃ、遠堺観光ツアー、再開だ!」
「「「お〜!」」」

 というわけで、竹川さんたちまで加えて、改めて街案内の再開だね。
 買い食いばっかりじゃなく、八百屋とか魚屋とか、街案内の本分として日常的に使うだろうお店の案内も忘れていない。
 先輩たちや竹川さんたちが加わったことで、服やらコスメのお店とか、美容室のオススメとか、女の子目線のお店もいろいろ挙げられてた感じだね。
 そうやって、買い食いとウィンドウショッピングを一通り楽しんだところで、商店街も歩ききって、辿り着くのは遠堺駅の南口だ。

 遠堺の市内には全部で3つの駅があって、市街の中心を担う一番の中核がこの遠堺駅だ。
 東西に伸びる、市外へ繋がる国鉄線と、境山を囲む「C」の字に沿って山脈の北側を隣の市へ抜ける私鉄線がここで分岐している。
 この内、私鉄線の側に、「C」の西側ちょっと北寄りの住宅街に「北遠堺」、そこから更に北側に回り込んだ先に、ほぼ研究所の関係者にしか需要がない「タルタロス前」という残り2つの駅がある。

「ここが遠堺駅だ。まぁ、北から電車通学してるんじゃなければ駅自体はあんまり使わねーと思うけど、エキナカはそこそこ遊べるから、その意味ではちょくちょく来る機会はあるかな」
「思ったよりおっきぃ駅だね〜。大きさだけならもっと都心の方の駅にも負けなさそう」
「駅がでかいっつぅよりは、エキナカがでけぇんだよな。ぶっちゃけ駅としての機能は全部2階で完結してるし」
「基本光が外に漏れないエキナカなら、普通の外の店舗より灯火規制が緩いからね。電車帰りの客層もアテにできるし、そういう店をエキナカに集めておけば商店街との棲み分けもできるからって、深夜営業したいチェーン店とか居酒屋なんかが全部エキナカに集まっているのさ」
「な〜るほどね〜」

 駅の構内に入れば、いかにも昔ながらな商店街とは打って変わって、他の街ならどこにでもあるだろう、ファストフードや丼物、ファミレスに回転寿司なんかの大手チェーン店や、コンビニ、「ラーメン」と書かれた暖簾や「酒」の字が灯る提灯に、商店街では見かけなかったブランド品の専門店なんかもあって、そこに混じるエキナカ定番のお土産物屋や駅弁、キヨスクに物産展と、これまた商店街とは別種のカオスな空間が広がっている。

「おぉぅ……これはこれでまた選り取り見取りだね」
「ま、ジャンル問わずチェーン店系は大体ここに来ればあるって感じだな」
「あと、ちゃんと席取って落ち着いて食べれるようなお店も大体こっちが多いから、待ち合わせとか適当に駄弁りたい時は商店街よりもこっち使う方が多いわね」
「ふんふん」
「こん中全部見てたらここだけで今日終わっちまうから、詳しい案内はまた今度にしとくけど、今はざっとよく使うところだけ回っておくか」
「おっけー」

 みんなの案内で、ファストフードやファミレスなんかの溜まり場にしやすいお店とか、何かと便利なコンビニや100均チェーン店とか、女の子には馴染み深いだろうアクセサリーやファッションブランドの直営店なんかを選んで巡っていく。
 と、そんな中に現れたのは、

「うへ〜、地下階まであるの? 本格的にダンジョンじゃん」

 地下へ降りる階段だった。

「地下はもっとやべぇぞ。無軌道すぎて『遠堺ダンジョン』とか『無法建築』とか『遠堺のサグラダファミリア』とかいろいろあだ名があるぐらいだかんな」
「なんでサグラダファミリア?」
「テナントの入れ替えとかも年中あるせいで永遠に工事してるからさ」
「あぁ〜……」
「マジでしょっちゅう配置変わってっから俺らでもたまにあれ?ってなるんだよな……」

 うん、まぁ、理由を聞いて遠い目になるのも宜なるかなって感じだよね……。

「私、迷って2時間ぐらい出られなかったことあります……」
「きゅ〜ん……」

 とは竹川さんの言。
 きゅ〜太も一緒にうなだれている辺り、おそらくその時も一緒に巻き込まれてたんだろうね。
 このエキナカは、ジッパチでも「遠堺の九龍城」と呼ばれるぐらいの迷路っぷりと無法地帯で恐れられているからねぇ……。
 僕も、今もしみんなとはぐれたら迷って出られなくなるんだろうなぁ……。
 リアルでは徒歩通学の僕にはあんまり縁がなかった場所だし、ましてジッパチとなると近づこうとさえ思わないから、ほとんど来たことがないし……。

「まぁ地下行ってるとマジでキリがないから、エキナカはここらで切り上げて次行くか」
「りょーか〜い」

 これ以上は冗談抜きで日が暮れちゃいそうだもんね。
 僕にはここまで来た道すらさっぱりだけど、さすがと言うべきか、スイスイと進んでいく九条君たちの後に続いて、エキナカを脱出する。

 駅の構内を北口に抜ければ、目の前に見えるのは駅前公園だね。
 説明もしつつ、横断歩道を渡って公園に入っていく。

「わぁ〜、おっきぃ公園だね」
「あぁ。ここが駅前公園だ。エキナカで遊ぶ時に現地集合だと絶対迷う奴が出るから、エキナカ行く時の待ち合わせ場所にそこの時計前とかを使うことが多いな」
「ふんふん」
「それに、芝生もこんなに広いですから、私もよくフリスビーとか持ってきゅ〜太を遊ばせに来るんですよ〜」
「きゃんきゃんっ!」
「なるほど〜、これなら確かに、ワンちゃんも気持ちよく遊べそうだねー」

 なんて話をしつつ、南東から中央の噴水広場を通って対角線上に抜ける並木道に差し掛かる。

「この並木は桜だかんな、春先はめっちゃ綺麗に咲くんだぜ。お花見にも持って来いだ」
「おぉ〜、いいね!」

 そうして、外周を東口まで回ると、鎮座しているのが……

「んで、このよくわからんのが『謎』だ」
「何これ……」
「わからん!」

 前衛的すぎて何を表したのか全くわからない謎のオブジェ。
 どういう形かと聞かれても言葉で説明することすら難しい、「なんかよくわからない何か」としか言いようがない名状しがたいその形状……。

「名前もついてないし、何の像なのか誰にもわかんねーから、そのまんま『謎』ってみんな呼んでる。まぁとりあえず『謎んとこ』とか『謎前集合』っつったらここのことで通じるから」
「あははー……な、なるほど……覚えとく」

 本当に一体何なんだろうねぇ、これ……。
 まぁこれの正体はひとまず置いといて……。

 公園を東に抜けたら、その先は行政区だ。
 学生の僕たちには馴染みが薄い場所だけど、九条君たちはどう紹介するのかな。
 ちょっと楽しみだね。


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