note.152 SIDE:G
それから程なくして。
「まぁ、こんなところかしらね」
まこさんのデザインが大体終わったらしい。
そこから次はどうするのかと思えば、出来上がった3Dモデルを見ながらしばし思考して、
「う〜ん……今回のチカって剣士でしょう? まぁ、あなたのことだから、受けるよりは避けるタイプよね」
「そだよー」
「なら、色も考えて、素材は……これと、これ……あとこの辺かしら?」
ストレージから取り出されて宙に浮かされた素材は、なんだろう、見た目は花崗岩っぽい白に黒い斑点が散らされた感じだけど、斑点の比率がやけに大きいのと質感が花崗岩とは明らかに違う何かの鉱石に、ピンク色の、リンゴぐらいの大きさがあるベリー系に見える何かの実、謎の赤黒い粉末と、唯一普通に見える糸巻きに巻かれた金色の糸。
それらに魔法がかけられると、金色の糸はするりと糸巻きから独りでに引き出されて、他の素材はまたさっきの銅鐸ローブと同様に、素材の元の形質を完全に無視して素材に含まれる色ごとに分かれて、上から形が解れていくかのように糸となって、ミスティスの分らしいデザインの描かれた型紙に吸い込まれていく。
そして、これもまたさっきと同様にカラーパレットにストックが追加されると、おそらくそれらの素材から得られる効果なのだろう、様々な追加効果のリストが現れる。
「♪〜♪〜〜」
自分の持ち歌を鼻歌で口ずさみつつ、スポイトと色バケツ機能のノリでポチポチとデザインに色を置いていく。
ただのスポイト機能だけではなく、色を組み合わせて混ぜる機能もついているようで、どうやら謎粉末の赤色は、ベリーのピンクと混ぜ合わせて使うつもりらしい。混色を作る時には、混ぜた二つの色がグラデーションされたバーも現れて、色味の配合比率も自由に調整可能なようだ。
配色を済ませると、次は付与効果を選んでいくようだ。
効果のリストを見ると、別々の素材から抽出された効果なのか、同じステータスで効果量が違うものが重複していたり、その重複する効果同士を複数選択すると一つに合成されて更に効果が上昇したり、効果が干渉するのか一つを選ぶとグレーアウトして選べなくなる効果もあったり、逆に異なる効果の組み合わせで新たに派生する効果もあったりして、なかなかに複雑なシステムみたいだね。
その上、横には付与の成功率らしい%も表記されていて、付与自体も確実というわけではないらしい。
そんな中から、悩んだ末にいくつかが選択されて、一旦決定される。
けど、まこさんは何か気に入らないようで、ステータスを見て呻く。
「う〜ん……もうちょっと回避率欲しいなー……。えーっとねー、ここ伸ばしてぇ……あーでもするとこうしないと見た目的に全体のバランスが……でもなー……ここのデザイン気に入ってるから変えたくないなー……じゃあこれは戻して……」
色々言いながらデザインを微調整していくと、どうも効果量や付与確率はそれぞれの素材の布地の使用比率にもよるらしくて、細かく数字が変動していく。
「あー、じゃあ、ここで布面積稼いで、こうすれば……そしたら、ここにこうして……こうすれば物理攻撃力変えずにMP回復力も残せるし、デザイン的にも全体を引き締められるっ。うん、いいじゃん! あぁ〜、やーっぱまこちゃん天才かぁ〜?」
なんて、大きく頷いて自画自賛してるから、何やら納得いく出来になったみたいだね。
得意げに「ふふん♪」と鼻を鳴らしてから、僕の方の配色作業に移っていく。
「こっちはねぇ〜、ふぅ〜ん……元の素材に魔法攻撃力+15%がついてるからそれも活かして……サマナーだから、効果としてはこの辺が欲しいところよね〜」
取り出されたのは、黒い綿状の何かと、銅鐸ローブの暗い藍色よりは幾分明るめの紺色か群青かぐらいの色合いの何かの葉っぱ、それと、糸巻きに巻いた白い糸と、同じく白い何かの革。
あとの作業は同じだね。糸に変換して色を取り込んで、配色して、効果を組み合わせていく。
そうして程なく。
「オッケー、デザインも付与も上々♪ 両方とも、この程度の効果ならスキル補正かけちゃえば……うん、100%っと。はい、確定っ!」
スキルの効果が適用されてバラバラだった付与確率が全て100%になったことを確認して、編集を完了させると、いわゆる「レシピショートカット機能」である構築魔法が発動して、型紙から魔法陣が展開されれば、型紙は消滅、残った魔法陣も魔力を使い果たして空へと消える。
まこさんは、おそらくそこに表示されているのであろう、生成結果を示すウィンドウを見て、また大きく頷いた。
「んん〜、まこちゃん今日もいい仕事するぅ〜♪」
どうやら納得できる結果だったらしい。
「それじゃ、チカはこれ。マイスはこれね」
まこさんから取引申請のシステムウィンドウが送られてくるので、ひとまず承諾する。
取引ウィンドウに渡されたのは、〈彼誰[黎明]〉と名付けられた、上下にマント、ブーツまで一揃いになった装備一式。
「ありがと〜まこりん♪」
「わ……あ、ありがとうございます。あ、あの、これお代とかは……」
と、不安になって聞いてみれば、
「要らないわ。今回はあたしが勝手にやっただけだし、まぁ、お近づきの印とでも思ってちょうだい。あぁでも、チカの方はそれなりの素材使ったし、材料費分だけ後で1stからでも徴収しようかしら?」
「おけー」
とだけで、軽く流されてしまった。
お近づきの印……にしてもちょっと豪勢すぎないかな……本当にいいのかな……。なんて戸惑っていると、
「あ、あと、お代の代わりと言ってはなんだけど、マイスにはちょっと聞いて欲しいことがあって……」
「はい、なんです?」
「あのね……」
唐突に、妙に思い詰めたような雰囲気になったまこさんに、少し頬を染めた、潤んだ上目遣いで見つめられる。
え、え、何この空気!?っていうか、文句なしのトップアイドルたるまこさんにそれをやられると、その、色々と破壊力がヤバいっ!?
思わず、生唾で喉が鳴る。
一体何を言われるのかと、身体を緊張させた途端……
くわっとその目が見開かれたかと思えば、握り潰されそうな勢いで両肩を掴まれて、
「女神様をっ! ステラちゃんにあたしの服を着せて撮影させてちょうだい! お願いっ!!」
必死の剣幕で迫られた。
えぇぇー……撮影!?
いやまぁ、そう言えば最初店に入ってきた時も撮影の時間とかなんとか言ってたけど、そういうこと!?
っていうか顔近いから!?それはそれで迫力がヤバい!
「ぅえぁ!? え、えーっと、まぁ、それぐらいなら、ステラがいいって言うなら僕は構わない、です、けど……」
う、うん、近すぎて、視線を逸らしつつそう答えるだけでいっぱいいっぱいだった。
し、心臓止まるかと思った……。
僕の答えに、ガバッ!とまこさんの視線がステラに向けられる。
「ステラちゃんっ、いいかしら!?」
「ん。よくわからないけど、マスターがいいから、いいよ?」
首をこてんと傾げてステラが答えれば、
「やっっっっったっ!!」
「っしゃあ!!」
まこさんと、何故かキングさんまで大はしゃぎする。
そして何故かキングさんが店のドアの掛け看板をひっくり返して閉店にしてしまった。……なんで?
早速、取引ウィンドウを開いたらしいまこさんが空中を操作していく。
「よっし、ミィナ! これとこれとーこれっとーこれもっ、それから最後にこれもっ! 着替えさせてあげてっ!」
「ほいきた、任せて〜。って、最後のこれって新作じゃない! 初めて見るんですけど!」
「そーよっ! ちょうどモデル探してたの。女神様なら絶対に似合うわ!」
「オッケー。じゃ、ステラちゃんはこっちおいで〜」
「ん」
ステラがミィナさんに連れられていった店の奥には……あ、ガッツリ試着室と撮影ブースがあるんだ……。……ここ、キングさんの鍛冶屋だったよね……?
まぁ、なんかもう細かいことは気にしちゃいけないんだろうね、うん……。