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note.153 SIDE:G

 そんなわけで、ステラが試着室に連行されていって。

「よっし、じゃあその間にうちらもせっかくだからこれ着替えようよ!」
「あ、うん、そうだね」
「うんうん、早く着て見せてっ!」

 まこさんにも催促されてることだし、渡された装備に着替えてみようか。
 ただ、う、う〜ん……これ、なんというか、デザインが豪華すぎないかな……僕なんかに似合うかな……。

 と、一瞬迷っている間にも、ミスティスの服装が変わる。
 おぉ、これは……

 トップスのベースは、裾を出した、黒のボタンの両側を挟むように1本ずつ黒いラインが入ったノースリーブの白のブラウスに、襟元にもちょうちょ結びの黒いリボン。その上から同じく黒い紐の編み上げで締めた、胸を強調するピンクのボディス。ブラウスの胸の下は二つまでしかボタンが留まってなくて、ボディスを締める編み上げもその二つ目のボタンがギリギリ見える位置までにされていることで、スカートと合わさって「A」型に肌を露出させたへそ出しスタイルだね。
 アウターの、縁取りや各所についたポケットの口等、要所に黒でアクセントがつけられたコート丈のノースリーブジャケットは、襟が立てられていたり、絞り紐があるタイプのパーカー風のフード付きだったりでかなりスタイリッシュなデザイン。裏地は他の部分のピンクよりは幾分色味の強いマゼンタに近い色合いになっていて、どうやらあの赤黒い粉末はここの色味調整に使っていたらしい。
 そして、ノースリーブで肩が露出した二の腕の真ん中辺りから着けられたピンクの着け袖は、上腕側の縁取りにアクセントとして金色が使われていて、下腕部には3分の2ぐらいまでスリットが刻まれている。スリットの内側はプリーツに折られた白い生地で縫い留められていて、どうやら軽鎧の肘当てを着けた時に、その固定を邪魔しない範囲で腕の可動域を広げてくれる設計みたいだね。
 ボトムスは、ベースは裾よりも少し上に細めに大小2本の黒いラインが入れられた白のプリーツスカート。その上から、前側は切り欠きにされて太ももの外側から後ろだけのピンクのフレアスカートを重ね履きしてあって、腰回りは金色のバックルを使った太めの黒いベルトで締められている。
 足回りはフルグリーブ風の白い膝丈ブーツで、これは実際軽鎧を装備した時には同じようにグリーブで置き換えられる前提のデザインかな。その下の、着け袖とセットのデザインで金の縁取りが入れられたピンク色のニーハイソックスは、スカートとの絶対領域を強調するように黒のガーターベルトで留められていた。
 全体的に、ピンクと白と黒でまとめた元のミスティスのテイストはそのままに、可愛いとカッコいいを両立しつつ、肩出しへそ出しに絶対領域と、要所の露出でセクシーさも押し出した、リアルに持ち出しても違和感なさそうな、スタイリッシュにまとまったデザインだね。

「か、可愛い……あとカッコいい。すごく似合ってるよ、ミスティス」
「そーお? えへへっ♪ やったね、褒められた♪」

 見惚れてしまって思わずほとんど無意識の感想が漏れてしまったけど、おかげでミスティスは喜んでくれたみたいだ。

「んん〜っ、いいねぇ〜♪ 名付けて『ブルーミング(Blooming)チェリー(Cherry)』! うんうん、やっぱりオーダーメイドは本人が着てこそ真の完成だよ! あぁ、素敵……っ!」

 作ったまこさんも納得の出来栄えのようで、指でファインダーを作ったり色々な角度で眺めながら周りをくるくると回ってご満悦だ。

 そしてキングさんはと言えば、

「うおおお可愛い……ッ!! やはりピンクと白の組み合わせは可愛さの王道ッ! しかしそれでいて、立て襟にノースリーブと、差し色の黒が全体を引き締めてスタイリッシュにまとめ上げているッ! そこに、着け袖があることによる下品にならない程度の肩出し、チラリと見える臍、そして何よりもォ! この完璧な比率の絶・対・領・域ッッ!! うがあぁぁぁそこに黒ガーターは反則じゃねぇか……ッ! チクショウ……可愛い……ッ! これがエロ可愛(カワ)の極致か……ッ!」

 ドン引きする勢いで聞いてもいない品評を語りつつ、まこさんと一緒になって回りながら、いつの間にか取り出した写真機で勝手にミスティスの撮影会を始めていた……。
 へ、変態だー!?
 とは言えミスティスの方もこの展開は慣れたものといった様子で、バッチリカメラ目線でポーズを決めているから、まぁこれもいつものお約束ということなのだろう。
 そうして、一通り満足したところでカメラを下してもう一度正面から引きで眺めて、

「うむ、やはりキャラが変わろうともチカは元の素材がいいからな。何を着せても似合うな、うむ」

 顎に手をやって悟ったような顔で頷いていた。
 う〜ん……品評含め言ってること自体は大体理解できるんだけど、言動が変態的すぎてすっごい素直に同意したくない……。

 ちなみに、こっちの世界になんで写真機なんてものがあるのかと言えば、どうもプレイヤーに単なるシステム上の視界スクショ機能では満足できなかった趣味人がいたようで、割と高級品ながら、レトロな一眼レフカメラが再現されて出回っているからだったりする。

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

「ほら、マイスも早く見せてよー」

 と、ミスティスに急かされれば、まぁ正直ちょっと気後れはあるけど、着てみるしかないね。

 僕の方の衣装は、全体の構成はシンプルにゆったりめの長ズボンとブーツにポンチョ風の貫頭衣タイプのローブ、その上からインバネスコート風のケープが一体になった足元までのフード付きマントという構成で、シルエットは普通に魔術師然としたよくあるスタイル。ローブには黄色で刺繍された魔術的な紋様も元の銅鐸ローブから引き継がれている。
 ただ、マントの二の腕の半分ぐらいまで伸びるケープ部分には、裾全体に黄色い飾り紐が垂らされていて、それに合わせるように、マント部分には背中から腰まで辺りにかけて、様々な長さで「天上から吊るされた星」が全体に散りばめられてるんだよね。
 そして、マントも上下一式も含めて全体が、フード部分はほとんど黒に近い藍色から始まって、肩口付近は元の銅鐸ローブの色味を活かした暗い藍色なんだけど、下にいくにつれて段々と青みを増して明るくなるよう全体に淡いグラデーションがかけられていて、脛辺りから下で色は急激に白へと変わって、ブーツもそれに合わせて完全に白になっている。
 なるほど、あの追加した黒い素材や白い素材はこのグラデーションをかけるために使ったんだね。

 ……着てみて思うけど……

「う、う〜ん……えっと、やっぱりこれ、僕にはちょっと派手すぎないかな……大丈夫……?」

 なんかちょっと大仰にかっこよすぎて、自分で見るとどうしても服に着られてる感がすごいんだけど……。
 なんて自分では思っちゃうんだけど、

「そんなことないよ〜。いいじゃんいいじゃん♪ マイスもすっごい似合ってるよー!」

 ミスティスはいつものように納得した様子で頷きながら、

「うんっ、こっちもいい感じぃ♪ 名付けて『彼誰(かはたれ)シリーズ:モデル黎明』! んやー、髪の色とエニルムローブを見た瞬間パッと降ってきたデザインなんだけど、我ながら予想以上の仕上がりだよ! まこちゃんってばやっぱり天才っ☆」

 まこさんは衣装の仕上がりに太鼓判を押して褒めてくれる。

 なるほど、それでアイテム名が〈彼誰[黎明]〉なんだね。
 確かに、僕の髪の色は、正直そこまでキャラクリに拘りはなくて、でもリアルそのままもさすがにあれかなーと思って少しだけ青みを付けて、だいぶ黒に近い、ほぼ黒色の藍色って感じにしてある。そう言われてみれば、フード部分はこの僕の髪の色と同じ色合いにしてあるんだ。
 それで、散りばめられた星の意匠と頭頂部から脛辺りまでの淡いグラデーションがその下で急激に白へと変わる配色は、夜明け前の彼誰時、その中でも未だ夜でありつつも東の空がわずかに白み始めた黎明の時間帯のイメージってことだね。

 う、うん、それを理解してもう一度、装備ウィンドウに表示された自分の姿を眺めてみれば……まぁ、似合ってる、と言えなくもない、のかな……?
 一度下した自己評価を修正するのに難儀しているところだけど、まぁ少なくとも、目の前の美少女二人から手放しで褒められているんだから悪い気はしないね。

「そ、そっか、よかった。ありがとう」

 ちょっと照れくさいけど、ここは素直に評価を受け取っておこう、うん。
 キングさんからは、

「おぅ、案外かっけぇじゃん。さすがに男に興味はねぇけど、写真が欲しいなら撮る分には撮ってやるぜ。要るか?」

 なんて誘われたけど、別に写真写りにも自信ないし、さすがに遠慮しておくよ……。


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