戻る


note.154 SIDE:G

 さて、そう言えば、この装備シリーズ、付与効果も色々つけてもらってたような……と、装備欄も確認してみると。
 わ……思ってた以上に色々効果がついてて、すっごい豪華なんだけど!?
 元々+15%だったMAtk(魔法攻撃力)は更に、服の上下とマントと靴の4ヵ所にそれぞれ5%ずつ追加されて、合計で20%も足されて+35%に、加えて4ヵ所装備でのセットボーナス効果として「魔法力増幅(小)」という複合効果でMAtkとMDef(魔法防御力)が追加で+15%されてて、合計でMAtkは+50%にもなっている。そこに、これもセットボーナスでMMP(MP最大値)+10%とMPR(MP回復力)+5%がセットになった「マナコレクト(小)」。おまけでついてるInt+5も、今後Lvが上がっていけば誤差程度になっちゃうだろうけど、今の段階では+5でも十分すぎるぐらい嬉しい数値だね。
 Lv120をちょっと超えたぐらいの今の僕で装備できる範囲でもこれだけ詰め込めるんだねぇ……。個人的には元の銅鐸ローブのMAtk+15%だけでも、しばらく使っていけそうだなーぐらいに思ってたのに……フルオーダーメイドってすごい……!

「付与効果がすごい……!」
「うんうん、こっちもFlee(回避率)50%にHPR(HP回復力)まで10%ついてるし、いろいろ欲しかったところも詰め込んでくれてるし、さっすがだよまこりん!」
「本当にありがとうございます」

 と、ちょうどミスティスも装備効果を確認していたみたいで、二人でお礼を言えば、

「ふっふっふー、苦しゅうない苦しゅうない。天才アイドルデザイナーまこちゃん様にはこの程度はおちゃのこさいさいなのだよっ☆ もっと我を崇め讃えたまえ〜、はっはっはー!」
「ははーーーっ!」

 うん、さっきから時折発生するこのコントみたいなノリはちょっとまだついていけないなぁ……あはは……。

 なんて、わちゃわちゃやっていると、

「お待たせーっ! って、わぁー! 二人ともすっごいかっこよくなってるじゃん! いいねぇ〜!」
「ありっと〜」
「ありがとうございます」

 試着室を出てきたミィナさんが、着替えた僕たちの姿に気付いて駆け寄って来て褒めてくれる。

 ところで……

「それで、ステラは?」

 と問えば、

「ん。私、ここ……」

 ミィナさんの後ろから、静々と歩いてきたステラの姿は――

「えっ」
「おー」
「んぉッ……!」
「ハッ……!」

「「「「メ、メイド服……!」」」……だと……ッ!」
「クッ、渡したのあたしだけど、予想以上……!」

 ホワイトブリムのカチューシャにロングスカートの王道クラシカルメイド……!
 しかも、ミィナさんに指導されたのか、折り目正しく身体の前で手を重ねた定番の待機姿勢もきちんと様になっている。
 美しい……元より人並みを外れすぎたぐらいの美しさを誇るステラがメイド服になると、それこそ本当に人形が動き出したんじゃないかとすら思わせる、完成された美がそこにあった。これはもう、文句なく美しいし可愛い……。
 そんなステラが、

「ほら、ステラちゃん、アレやったげてー」
「ん。お帰りなさいませ、ご主人様」

 なんて一礼して、こてりとわずかに首を傾げてみせれば……こ、これは……予測可能回避不可能な可愛さの暴力……ヤバい……!

「きゃあああああ! か、可愛いいいいぃぃぃぃぃっ♡」
「あー、いいわ〜、完璧! ナイス、ステラちゃんっ!」
「わぁ〜……メイド喫茶でトキメいちゃう男の人の気持ちがちょっとわかっちゃった気がするよー」

 とは、まこさんミィナさんミスティスの反応。
 キングさんに至っては……あ、やけに静かだと思ったら昇天してる……口から白いの出て行っちゃってるよー、帰ってきてーっ!
 って、まこさんが消えかかってる白いのを鷲掴みして……そのままグーパンで口の中に叩き込んだー!?

「はっ……って、ちょっとキング! 死んでる場合じゃ! ないわよ!」
「っかぼぁ!? っは!? うおおそうだ、この女神様の御神体を写真に収めねば死ねるものか!」

 えぇぇー……それで復活するの!? え、今それ何したの!?

 えーっと、まぁともかく、再起動したキングさんと一緒にまこさんが奥の撮影ブースに入って、ステラを手招きする。

「ステラちゃんっ、こっちおいで〜」
「ん」

 そうして、そこからはステラと、ついでにミスティスも巻き込んだコスプレ撮影会が始まった。
 ミニスカメイドに着替えたミスティスも加わって、ステラは言われるがままに、ミスティスはノリノリで、まこさんプロデュースの下で、ミィナさんが照明を、キングさんが撮影を担当する。……というか、最初はそんな体制でやってたんだけど、段々とみんなスイッチが入りだして、最終的にミィナさんとまこさんもコスプレし始めて、気付いたら僕がまこさんの指示で照明係をやらされることになっていた。
 突然の照明係任命にはちょっと戸惑ったけど、そこはさすがのトップアイドルまこさん。照明を当てられる側に回っていても、自分たちがどう写っているのか完璧に把握していて、僕は指示通りにストロボの位置や角度を動かしていくだけの簡単なお仕事だったね。

 そこからは、撮影対象が四人になって、美少女四人による「お帰りなさいませご主人様」と「萌え萌えきゅ〜ん♡」の破壊力でキングさんは言うまでもなく、僕も一瞬危ういところに意識が飛びかけたりしつつも撮影を続けていく。

 メイド服の次はナース服。
 どこから出してきたのやら、定番の巨大注射器や聴診器、カルテ、包帯なんかの小物もバッチリ準備されていて、これもなかなかの破壊力だった……。
 一番ヤバかったのは、ミスティスとまこさんの低身長コンビで密着で手を繋ぎ合ったまま包帯でぐるぐる巻きにされた状態での撮影が……なんかもう色々すごかった……。

 ただ、本当にすごかったのはその後で……バニーガールからのブルマの体操着は……どっちも生足の露出具合がヤバい……! バニーガールはもちろん網タイツバージョンもあったし……。
 その頃にはもうみんなも割と悪ノリに走り始めてて、バニー衣装ではトランプを胸の谷間に挟んだり何故か用意されていたカジノテーブルに足を組んで腰掛けたり寝そべったり、何故かビリヤード台まで出てきて実際に色々ショットしているところを撮ったりとか。
 体操着は上着が何故か一回り大きいサイズのぶかぶかで、開脚前屈とか背中合わせでお互いを背中で持ち上げるアレとかをわざと際どい角度指定で撮ったり。っていうか、そのパン食い競争のセットは一体どこから持ってきたのさ!? なんで用意してあるの!?
 なんかもう終始カオスすぎたし、途中途中色々と反応してしまいそうになってちょっと抑えるのに必死だったのは……うん、しょうがないよね、そういうものだから……。

 とまぁ、一通り色々遊んで満足したところで、最後はステラに渡した「新作」のお披露目撮影となった。
 初披露の新作とあって、まこさん自ら着付けるとのことで、二人で試着室に入ってからしばし。

「オッケー準備完了ー! それじゃ、お披露目いっくよー!」
「「「「はーい!」」」」
「3、2、1……じゃじゃ〜んっ♪ どーよ新作! 名付けて『ヴァイス(Weiß)フリューゲル(flügel)』っ!」

 カウントダウンと共に、勢い良くカーテンが開かれると。

 ステラを着飾っていたのは、麦わら帽子と夏のひまわり畑が似合いそうな白のワンピース。
 だけど、まこさんの新作というだけあって、ただのシンプルなワンピースではなかった。

 ベース部分こそシンプルな、谷間が見えない程度の胸の上で絞ったベアトップのオフショルダーワンピースだけど、そのスカート部分は膝上というよりは股下で測った方が早いだろう、だいぶ際どい丈のフレアスカート。ただ、その上から、一枚一枚は肌の色まではっきり透けるぐらいの薄いシフォン生地を幾重にも重ねてあって、ベースのスカート丈はシルエットでしかわからない程度に隠されつつも、内側の生地になるほど丈が長く重ねられたティアードスカート構造に加えて、前側は膝上数センチの丈に対して後ろ側は足首までのロングスカート丈になったフィッシュテールタイプにされていることで、下に行くほど透け感が増して、前側は裾近くの少し上、後ろ側は膝のすぐ下辺りが最後の段、それより下は薄いシフォンのベール一枚で、脛辺りまで編み上げたローマンスタイルの白いサンダルに包まれた生足が透けて見えるようになっている。
 その腰元には、スカートと同じ薄いシフォン生地で、背中側に膝下ぐらいまで伸びるリボンが前からでも見えるぐらいに大きくちょうちょ結びで結ばれていて、羽衣みたいなイメージを思わせた。
 ベアトップと同じ高さで脇のすぐ下に括られた長袖の白い着け袖は、シンプルなベルスリーブ。その上には、これもスカートと同じシフォン生地のボレロを重ね着することで、肩から袖口にかけて薄っすらとシルエットが追加されていて、その袖も間隔の広めのティアード構造になっているけど、こちらはあくまでシルエットの追加が目的。生地の重なりはフリル部分だけに抑えられていることで、透け感は阻害せず、下の着け袖ははっきり見えるようになっていた。
 全体的に、一見すると清楚さを全面に押し出した白ワンピースに見えて、その可愛らしさの中に絶妙に調整された透け具合や追加されたシルエットによって程よくセクシーさが加えられていて、そこに気付くと思わず目が離せなくなってしまう、そんなデザインだね。

 その純白の衣装に、ステラの銀髪銀眼が合わされば……

「綺麗……」

 それが無意識に零れていた僕の素直な感想だった。
 特に、特徴的なリボンと計算されたスカートの透け感がよく見える後ろからの見返りのアングルがすごく可愛い……!

「どう、かな。マスター」
「うん、すごくよく似合ってる。可愛いよ」

 と、くるりと回ってみせたステラに問われて、素直に答えてあげれば、

「ん。嬉しい……」

 ステラは文字通り、花を咲かせたような笑顔を綻ばせる。
 うん、この笑顔が今日一番の破壊力だったかもしれない……。

「か、可愛いっ!」
「かわいー! えっ、ねぇこれ欲しい! チカで着たい!」
「わかるー! 元々モデル見つかんなかったらチカに着てもらおうと思ってたし」

 女子三人組がそれぞれに反応する横で、キングさんも早速撮影に飛びついている。

「のおおぉぉぉ……こ、これはッ……! 見える! 見えるぞッ! 青い空、白い雲、遠く水平線に広がる紺碧の海原! 一面に広がる満開のひまわり畑がッ! そしてそこにあるべきは! そう! 白ワンピースの可憐なる乙女……ッ! 清楚に全振りした至高の憧憬……そう、その立ち姿は儚いからこそ美しい……ッ!
 嗚呼、だがしかし! これはそんな至高の美を完璧に体現して尚! その域に留まらないッ!! 何故ならばッ! おぉ、見よ、この清楚であるべき白ワンピにあるまじき短すぎるスカート……! だがそれはあるべき至高の美を損なってしまっているのか!? 否ァッ!! 断じて否! 丁寧に折り重ねられた薄衣が本来のスカート丈を覆い隠してみせ、而して奔放に煌めく真夏の陽光の前には隠しきれることなどなく、薄っすらとそのシルエットを浮かび上がらせる……そう、それは決して破廉恥などではないッ! 言うなれば、秘められしエロス……ッ!
 そして、その薄衣が織り成すフィッシュテールカット……計算され尽くしたそのスカート丈は、後ろから見れば、否応にも目に入る腰元のリボンと合わさって白ワンピ本来の清楚さを演出しつつも、下に行くほど重なりが減って薄くなっていくことによってその奥に秘められた柔肌と脚線美を浮かび上がらせッ! 前から見れば、編み上げサンダルで強調されたその生足を惜しげもなく曝け出しながらも、秘すべき部分はしっかりと守りきり、それでいて『見えそうで見えない』絶妙な布地の重なり具合が見る者の心を擽る……ッ!
 極めつけは、オフショルに合わせた着け袖と、上に羽織った薄衣一枚のボレロ……! 単体ではシンプルな着け袖が、ボレロによって重ねフリルのシルエットが追加されることで華やかになり、しかし同時に、向こう側まで透けて見える薄衣はオフショルの魅力である鎖骨から脇のラインを余すところなく見せつけるッ! そこにあるのは、そう……『少しだけ冒険して肌を見せたい、でも生肌を直接見られるのはちょっと恥ずかしい』という乙女の恥じらい……ッ!
 なればこそッ! これらが融合した先に完成するのは間違いなく白ワンピースに求められる『清楚』という名の美の究極……ッ! 至るべくして至れる極致……ッ!! そしてそれを身に纏うのは……あぁ……なんということだ……女神はここに居られたのか……!」

 シャッターを切る手は一切止まることなく、散々に語り尽くしたと思ったら、唐突に愕然と崩れ落ちるキングさん……。
 いやぁ……言いたいことは理解しないでもないけど、これに素直に同意してしまうと人として致命的に何かを失う気がするから絶対に何も言わないよ僕は……うん……。

「……で? 満足した? キング」
「あぁ……ここで死ねるなら悔いはないさ……」

 これにはさすがにやっぱりみんなもドン引きだったか、呆れ気味の半眼になったまこさんに問われて、キングさんが真っ白に灰になる。
 ……これはだいぶ末期症状だね……。

「いや死んでんじゃないわよ、満足したんなら掲示板に載せるカタログ用の写真も撮らせなさいな。こっからは真面目にやるわよっ」
「おぅ、合点だ」

 ということで、ここからはお仕事モードの顔つきになったまこさんの監督で、真面目な撮影タイム。
 照明や画角も彼女自ら調整して、ポーズも細かく指定される。

「次、もうちょっとアングルアオリで……うん、そんなもんね。で、ステラちゃんはちょっとだけ腕広げてー、そう、そのまま片足でくるっとターン! ……いいわね。キング、今のどう?」
「おうバッチリだ、15枚連写してこんな感じだが……どれにする? 俺様のイチオシはこれだな」
「いいじゃない。そうそう、ちょうどこういうスカートの靡いた見返りが欲しかったのよ、これでいきましょ」
「あいよ」
「じゃ次は……ステラちゃん、ちょっとこれ被って」
「ん。こう……?」
「んー……もうちょっと後ろに傾けて……こう、かな。うん、やっぱ白ワンピには麦わら帽子よね! アングルは正面でいいから、照明は帽子の影も考えて……うん。あとは扇風機回して……ステラちゃんは右手で帽子抑えて、左手はスカート抑える感じで……そうそう! いいわね。次はそのまま……《トーチ》 この灯りを見上げる感じにして。そう! あ〜、いいわ〜、うんうん。オッケー、じゃあ次は――」

 トーチはマジシャン版のライトで、単純に火の玉を浮かべて灯りにする魔法だね。
 クレリックのライトとは、罠を見つける能力がない代わりに、隠蔽魔法を看破する能力がライトより高いことと、方向を指定して向けた方向しか照らさない代わりにより遠くまで照らせる機能がついていることで差別化されている。
 最近はツキナさんが罠も見られるライトを使ってくれるから使う機会がないけど、僕も取得はしてある魔法だ。

 おぉ……なんというか、こうして真面目にやってる場面を見ると、さすがプロの仕事って感じだね。
 実際に出来上がった写真も後で投下されたスレを確認しにいったんだけど、キングさんの撮影の腕も、もはや素人の趣味の域を超えてる感じで、本当にリアルのファッション誌みたいな出来映えだった。
 そして、その後しばらくの間、ステラこと「突如まこりん♪専属として現れた正体不明の冗談みたいな美少女の新人モデル」の話が界隈を席捲することになるのは……まぁ、また別の話ということで……。


戻る