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note.158 SIDE:G

 翌日。

 今日はオグ君たちもログインしてきて合流だ。

「おっはよ〜」
「おはよう、みんな」
「おはー?」
「おはよう……って、待て待て、30分ログインが遅れただけの1日の間に何があった? いろいろと情報量が多すぎるぞ」

 オグ君の当然のツッコミにツキナさんも全力で首を縦に振る。
 あははー、まぁそうだよねぇ……。本当に昨日一日でいろいろありすぎた。
 とりあえずステラを紹介してから、ミスティスと二人で図書館の件から順に昨日のことをかいつまんで話していく。

「なるほど……随分と、なんというか……激動の一日だったようだね?」
「うん、まぁね、あはは……」

 とまぁ、ひとまず昨日のことは話し終えて。

「ふむ、しかしそうか。マイスとミスティスが上位職になれたのならば、今日の出発前に僕もハンターのライセンスをもらっていくとしよう。一緒に弓手としてティッサ森を越えたんだ、おそらく上位職の条件は満たしているはずだ」
「おぉ〜、いいね!」

 と、転職のことも話した流れもあるし、このまま今日の行き先の話をしちゃおうかな。サマナーになったんだから、約束通りカスフィ森の大妖精の彼女と契約をしに行きたいからね。

「それで、今日の行き先なんだけど……ちょっと僕に行きたいところがあって……。みんな、付き合ってもらっていいかな?」
「いいよー」
「おっけー」
「構わないが……どこに行くんだい?」
「カスフィ森に行っておきたいんだ」
「カスフィ森か。ふむ、確かに今の君とミスティスのLvなら適正の狩場ではあるが……僕らがいるんだから、もう少しLvの高い狩場もいけるんじゃないか?」
「まぁ、Lv的にはそうなんだけど……」

 えーっと、どこから話そうかな……?
 ちょっと話の組み立てが前後しちゃったけど、サマナーを選んだ理由と、僕が一人だった日にマリーさんと行ったカスフィ森での出来事をみんなに話す。

大妖精(グレーター・フェアリー)! 何それ見てみたい!」
「大妖精か……そんな存在、聞いたこともないが……」
「うん、マリーさんも初めて会うって言ってたしね」
「ふむ、エルフである彼女がそう言うのであれば、よほど珍しい存在ということか」
「そうみたい。その日はその子にいろいろ助けてもらってね。それで、別れ際にサマナーかソーサラーになったら契約してあげるって約束してくれたんだ」
「なるほど、考えなしにサマナーにしたわけでもないということか」
「うん。だから、その子をみんなにも紹介する意味も兼ねて、約束を果たしにいきたいんだ」
「よーっし、じゃ、行き先はカスフィ森にけって〜い♪」
「おーっ!」
「了解した」

 というわけで、今日の行き先は無事カスフィ森に決まったのだった。

 まずはアミリアを経由して……ギルドでオグ君の転職と、ついでにこなせそうな依頼がないか覗いてみる。

 すると……あ、ちょうどいいのがあったね。カスフィモンキーの尻尾5本の調達かぁ。
 カスフィモンキーは樹上で生活しているだけあって、尻尾は器用かつ強靭で、三本目の手のように自在に操ることができる。それを支えている筋は伸縮性と弾力に富んだ優秀な繊維素材になるから、いろいろと需要があるんだよね。

 それともう一つ……

「う〜ん……これ……」
「ふむ……高純度エンジェルズリリー1株の調達か……」
「深層部で取れる高品質もの限定かー」

 エンジェルズリリー……この間マリーさんとの時にも見つけた花から茎まで全部が真っ白い百合の花だよね。
 結構貴重な素材っぽいけど……。

「ん〜、取ってこようにもまず見つかるかどうか怪しいし、これ確か普通じゃ持ち運べないよね?」
「あぁ、そのはずだ。ダンジョン内の高エーテル環境に特化した生命体だからな」
「持ち運ぶ方法なら一応知ってるけど……」
「えっ、ホントに?」

 ツキナさんに少し驚かれる。
 まぁ、まさか僕が知ってるとは思わないよね。

「マリーさんに教わったから、採取と保存の方法はわかるよ。あと、保存用の高エーテル環境生物用のポットも、店頭にはないけど言ってくれれば売ってるってマリーさんが言ってた」
「ん〜、それならー……見つけられるかどうかはわかんないから、とりま依頼書は一旦ほっといて、見つけられて、依頼が残ってたら報告でよくない?」
「そーね」
「ふむ、まぁそれが一番確実で損がないだろうな。見つからなければ放置、見つかって戻ってくるまでに依頼が解決されていたとしても、その時は通常通りギルドに素材として卸してしまえばいいだけだ」
「そうだね」
「んじゃーそれでいこ〜」

 ということで、方針は決定。

「ならば、その保存用のポットとやらをてんとう虫で買っていくとしよう」
「おっけー」
「だね」
「うん。今日は僕に付き合ってもらう形だし、ポットの代金ぐらいは僕が払うよ」
「ふむ、そうか。なら任せよう」

 そうと決まれば、まずはてんとう虫だね。

「いらっしゃいませー。おはようございますー」

 と、ステラのことも紹介しつつ、それぞれに挨拶を返して。早速本題に入る。

「マリーさん、この間の、高エーテル環境用の保存ポットって今売ってますか?」
「えぇ、ありますよー。あれが必要な場所に行くのですかー?」
「はい、サマナーに転職できたので、カスフィ森の深層まで行ってきます」
「なるほどー、それはおめでとうございますー」
「ありがとうございます」
「では、あの時の約束を果たしにいくのですねー?」
「はい。ついでで、ちょうどエンジェルズリリーの依頼があったので、見つけられれば採ってこようかなと」
「そういうことでしたかー。では、少しお待ちくださいー」

 そう言って、マリーさんはすぐにポットを持ってきてくれる。

「こちらが高エーテル環境生物保存用のポットになりますー。マイスさん以外は初めてだと思いますのでー。使い方をご説明しますー。
 こちらのソケットに魔石をセットすることで、カプセル内部のエーテル濃度と魔力濃度を、カプセルを閉じた瞬間の状態で保存してくれるようになっていますー。
 どれぐらいの間保存できるかは、維持する環境とセットする魔石の濃度にもよりますがー。青緑で大体2〜3日、緑で3〜5日ぐらいですかねー。黄緑なら大体7日ぐらいは持ってくれますー。このポット自体、基本的には然るべき場所に渡るまでの間の輸送用ですのでー。緑色ぐらいの魔石をダンジョン内で現地調達してあげれば十分ですねー」
「ほぅほぅ」
「ついでですのでー。エンジェルズリリーの採取方法もお伝えしておきますねー。あの子の構成成分の9割は、本来エーテルに蒸発するべきフォトンが、言うなれば過冷却に近い状態で固形化したものですー。ですのでー、あの子に直接触れてしまうと、一瞬で元通りのエーテルに蒸発して消滅してしまいますー。絶対に直接触れることのないようにー。触らずに採取するためには、深さも直径も20センチぐらいになるように、土ごと掘り出してあげるのが一番確実ですねー」
「ふむ、なるほど、その情報はありがたい。感謝します」
「いえいえー。それでは、こちらのポットは10000アウルになりますねー」
「はい」

 お値段10kかぁ。このポットのまま取引相手に引き渡しになっちゃう以上、実質使い捨てだと思うとちょっとお高い出費な気もするけど……結構大仰な装置でもあるし、まぁそれこそこういう時でもないと使わないものと見れば妥当なところなんだろうね。

 ともあれ、支払いを済ませて。

「ありがとうございましたー。今後ともごひいきにー。無事に契約できたらあの子ともまたお話させてくださいねー」
「はい! 帰りにまた寄りますよ」
「あらー、それでは、楽しみに待ってますねー、ふふっ」

 大妖精との再会をマリーさんに約束して、僕たちは店を後にした。


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