戻る


note.182 SIDE:G

「ほら、もー次いくよー!」

 何故か頑なに自分が廃人と認めないミスティスに引っ張られて、再び山道を歩き始める。
 少し進むと、

「おっ、空き家はっけ〜ん♪」

 誰もいない小坑道を見つけて、また採掘タイムだね。
 今度もまた、無秩序に掘られた小部屋をみんなで思い思いに掘っていく。
 僕も適当に目に付いた魔晶鉄鉱を掘り出していたんだけど……。
 その一つにツルハシを入れようとして、

「あぁ、マイス、それはダメよ」

 リーフィーに止められる。

「えっ、どうして?」
「ん〜……でも、そうね。こういうのは一度体験する方がいいかしら? 守ってあげるから、叩いてみなさいな」
「え、う、うん」

 守って……? なんで? 何から? まぁわからないけど、言われた通り掘ってみよう。
 とりあえずツルハシを振り下ろしてみると……

「わぁっ!?」

 ちょっ、魔晶鉄鉱がいきなり爆ぜた!? 小石の散弾がショットガンみたいに飛んできてびっくりしたけど、言った通りリーフィーが光の盾で守ってくれたから無傷で済んでいる。同時に返ってきたのは「ガツン!」といつもより鈍い手応え。
 そして、叩いたところの壁面から岩の塊がボコッと外れて……浮いた!?

「えっ、浮いた!? 何!?」

 思わず数歩後退りして距離を取る。
 浮いた塊は、キシキシと石をこすり合わせたような、まるで笑ったかのような耳障りな音を立てた。

「おー、コイツか〜」
「マイス、大丈夫?」
「あ、うん、ちょっとびっくりしただけ」

 元々そんなに広い部屋でもないこともあって、僕の声にみんなすぐに集まってくれる。

「おっと、ジュエルミミックを引いたか」
「ジュエルミミック?」

 突然のことすぎて余裕がなくなってたけど、なるほど、オグ君に言われて落ち着いてMobの名前を表示させれば、ジュエルミミックと表記が出る。これも魔物なんだね。

「見ての通り、鉱物に擬態する魔物だな」
「正確には擬態というよりは、鉱物に過剰に溜まった魔力が意思を形成したものよ。私たち妖精や精霊とはまた違う概念の魔力生命体ね」
「なるほど」

 まぁ、魔物として名前が出るのなら敵だね。

「まータゲは引き受けるよ〜」
「ありがとう」

 ミスティスが挑発を鳴らして前に出てくれたから、彼女に任せて入れ替わりで僕も後ろに下がる。

「けどコイツあんまし剣効かないから攻撃は任せた!」
「うん」

 見るからに物理防御高そうだもんねぇ。的も浮いてる上に剣で斬るには小さいし、エニルムの時のゴーレムトルーパーに似た感じの、ミスティスはちょっと苦手そうなタイプだね。

 さて、だけどどうしよう? そもそもあまり広くなくて比較的みんな密集してる状態だし、この無秩序に掘られただけの閉鎖空間で爆発系の魔法もちょっと怖いよねぇ……。となると……これがいいかな。うん、初めて使うけど、詠唱はなくても大丈夫そうだ。

「《サークリングファイヤー》!」

 構築した魔法陣に従って、ミミックを囲うようにその真下の地面に円形に炎が走ったかと思うと、炎は螺旋を纏った火柱となってミミックを包み込む。
 火属性中級魔法のサークリングファイヤー。同じ火属性中級魔法のファイヤーピラーに見た目は似てるけど、地面指定で吹きあがる炎による火力と、残り続ける火柱による継続ダメージと進路妨害がメインのファイヤーピラーに対して、こちらはこう見えて対象指定型。炎の渦による拘束と継続ダメージがメインのスキルで、時間経過で上昇していく継続ダメージとバインド効果を持っている。

 ただまぁ、今まで使ってなかったLv1のままだから、まだちょっと継続時間が短くて拘束力に欠けるかなぁって感じだねぇ。
 火柱が消えると、だいぶ飛び方がふらついてはいたけど、ミミックはまだ健在というところだった。

 怒りの意思表示かカチカチと石同士を打ち合わせたような音を立てたミミックが、全身に纏った軽石部分を分離させて、内部の大きな魔晶鉄の結晶を露出させると、そこからミスティスに向けてビームが放たれる。

「おっとー、ヨユーヨユー♪」

 まぁ、この程度の単純な攻撃なら軽く盾で受けるだけだね。

「そこだ!」

 露出した内部の結晶はやはりある程度弱点ということなのか、ビームの隙を突いてオグ君が矢を放つ。
 だけど、当たる直前で周囲に浮かせていた軽石部分が再びガチリと閉じられて、そこに巻き込まれて矢が折られてしまう。

「く……なかなかやる……!」

 案外とめんどくさい相手だね……! まぁでも、今度こそ逃がさないよ。

「《サークリングファイヤー》!」

 二度目の炎の渦に飲まれて、今度こそミミックは倒れたみたいだけど……。
 火柱が消えたそこには、ミミックの身体だった魔晶鉄鉱の塊がそのまま残されていた。

「おっけ〜ぃ。はい、マイス、これ!」
「え、えっと、いいの?」

 一番近かったミスティスが残された魔晶鉄鉱を拾って僕に渡してくれる。えーっと……?

「基本的なトラブル防止のルールで、ジュエルミミックが残したものはそのミミックを掘り当てた人のものってことになってるんだよ。暗黙の了解ってやつだけどね」
「なるほど。ありがとう」

 確かに、それこそ今回みたいなパターンで一人が掘り当てたミミックをパーティーで倒して、後から掘った人とドロップ権どうこうで揉めるよりは、最初から掘り当てた人のものってことにしちゃうのが一番後腐れも混乱もないよね。

 とまぁ、それはいいとして……

「ところで、ジュエルミミックって掘る前に見分ける方法はないの? 毎回あれをやられるのはびっくりするんだけど……」
「残念ながら少し難しいな。一応、奴は生きているからか、鉱物探知に引っかかる光をよく見るとわずかに魔力が明滅してるんだが……ぱっと見だとかなり慣れないと難しいところだ」
「私でも未だにたまに引っかかって石バラマキ喰らうからね〜。ま、簡単に見分けがついてたらミミックとは呼ばれないってことだよ」
「そ、そっか……」

 パーティーなら予めディビーナかけてもらっておくとかできるだろうけど、ソロだとこれは結構厄介そうだねぇ。

「安心なさいな。私がついている限りは全部見分けてあげるわ。奴は魔力生命体ですもの、私の魔力視ならお見通しなのだわ」
「おぉ、そっか、さすがリーフィー。ありがとう、頼りになるよ」
「ふふん、あなたの守護精霊になったのですもの、これぐらいは当然よ。もっと私を頼ってもっともっと褒め称えなさい!」

 これは実際ありがたいね。あの石散弾はびっくりするし、採掘の度に毎回防御手段を意識するのも手間だしね。
 まぁ、ありがたいにはありがたいんだけど……。

「うん、本当に感謝してる。ありがとう」
「あら、今日は随分と素直なのね、うふふっ」
「実際感謝はしてるんだからそのまま言っただけだよ。そもそも、僕はいつでも素直だってば」
「あぁんその目はやめてってば〜。わかったわよぅ、そういうことにしておいてあげるわ」

 結局ジト目を送ったよね、うん。

「ちなみに、見分けがつけられるのなら、普通に魔法で先制してしまうといい。遠距離攻撃ならとりあえず初手の散弾は撃たせずに済む」
「わかった」

 判別はリーフィーに任せておけちゃうから、先手を打つのは楽勝だね。

「よ〜し、まだまだ掘るよ〜!」

 というわけで、それぞれに分かれて採掘再開だね。


戻る