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note.183 SIDE:G

 続けて掘っていると、声が上がったのはツキナさんだった。

「わぁ、ラッキー♪」

 何か見つけたみたいだね。見るからに弾んだ様子で、見つけたらしい何かにツルハシを振るう。
 みんなも興味津々に集まる中、掘り出されたそれは――

「見て見てっ!」
「おぉ〜、宝石だぁ〜♪」
「わぁ、すごい」
「ふむ、ここで採れる赤色は……確かガーネットだったか?」

 ――宝石の原石だった。
 魔力そのものの結晶体である魔石が「ジェム」と呼ばれて広く使われているこの世界だけど、それとは別として、リアルと同様の宝石もきちんと存在はしてるんだよね。こちらは「ジュエル」と呼ばれている。
 ただ、この世界の場合、もちろんリアルと同じく宝飾品としての使い道もあるんだけど、ジュエルの使い道はもう一つあるんだよね。

「確かジュエルって装備のカスタマイズに使うんだっけ」
「あぁ、そうだな。システムがなかなか複雑な上にランダム性もあるから、カスタム要素の中でもかなりエンドコンテンツ寄りのシステムだが、その分恩恵も大きい。正直、僕らもまだ完璧には使いこなせているとは言い難いな」
「まージュエルカスタマイズは沼だよね〜。私も1stの装備最終形まで持っていくのすんごい沼ったもん」

 そう、ジュエルカスタマイズ、だったね。オグ君の言う通り、かなりのエンドコンテンツらしいって話だったから、僕にはまだ縁がないかと思って詳しくは調べてなかったけど、どうやら装備品に宝石をはめ込むと色々な追加効果を付与できるってことらしい。
 ただ、装備品のどこに、どの種類の宝石をはめ込むか次第で付与される効果が変化するらしくて、更には同じ宝石の組み合わせでも配置位置で効果が変わったり、そもそも武器の形状も関係してる?みたいな話で、本当にランダム性が高くて、ミスティスの言う通り本当に沼みたいだね。

「宝石の力を武具を通して引き出す人類種の技術をそう呼ぶのだったかしら? まぁ、無理もないわね。宝石が生み出す力を十全に発揮させるには、今の人類種ではまだ理解も技術も足りていないもの」

 とはリーフィーの言。

「ふむ、守護精霊となったリーフィーがそう言うからには、やはりあの効果にはまだ僕らが知らない法則性が隠されているということか」
『ん。宝石の力、色が重要』

 と、ステラも会話に加わってくる。

「それはまぁ、よく言われてるね〜」
「あぁ、確か、基本は三原色で、赤色系統は攻撃力やバフ効果の系統、青色は防御力やデバフ効果、緑色は速度や回復に関する効果が出やすいんだったか」
「そーね」
「あとは属性だね〜。これは見た目のイメージ通り、赤が火属性とか青が水で緑が風、黄色が地とかだよね」

 この辺りは、確か情報サイトでも解説されていたことだね。

『そう。だけど、宝石の力を理解するには、今の人類種には認識が欠けているものがある。それが魔力回路と混色』
「魔力回路と……」
「「混色……?」」

 これはなるほど、初めて聞く話だね。オグ君や上級者だろうミスティスでも初めて聞いたのか、みんなしてオウム返しに聞き返す。

「そもそも、宝石の効果はどうして色で同じ系統に分かれるのだと思う? その答えは、宝石の色というのは、宝石を介して魔力が変質した結果だからよ。同じような色になるということは、魔力が同じような性質に変わっているということ。だから効果も似たような系統としてまとめられるということね」
『それから、魔力回路。今の人類種は、身につけたものまで「自己」と認識して無意識で処理している。それは、道具を自分の手足のように扱えるという意味では正しい。けれど、その弊害として、道具に対して魔力を流す時、その経路も認識されることなく個人の感覚で処理されている。これが良くない。宝石に通した魔力の変質を理解するには、道具の中の魔力の経路の把握が不可欠。
 魔力が流れるということは、体内で魔力を巡らせるのと同様に、手にした道具に対しても、手元から始まって道具の全体を巡って最後に手元に帰ってくる、一連の魔力の経路が存在するということ』
「今の人類種はこれを無意識にやれてしまうが故に、逆に魔力回路の存在に対する認識が欠けてしまっているというわけね。それで、この魔力回路が存在することを前提に、経路上に複数の宝石を配置すれば、どうなるかしら?」

 それはつまり、もしかして……

「あっ……まさか、変質した魔力がさらに変質して、混じる?」
「その通りよ。それが魔力の『混色』ね」

 そう聞いて何か心当たりがあったか、ミスティスがポンと手を打つ。

「あー! そっか! だから同じ宝石の組み合わせでも配置で効果が変わるんだ!」
「あと、他人がカスタムした装備を自分で使うと効果に誤差が出るのも納得ね」
「つまりあの現象は、個人で無意識にやっている魔力の流し方が違うから、カスタムした人物との魔力の経路の差で通過する宝石の順番が変わるせいか」

 みんなも色々と腑に落ちるところがあったらしい。

「ふむ、だがまだわからないことがある。ダイヤモンドやクォーツなんかの透明な宝石でも効果がズレるのはどうしてなんだ?」
「あー、それねー。下手にダイヤ混ぜると大体全部ズレて沼になるんだよねー!」

 なるほど、僕が見た情報サイトでも、詳しいところは読んでないけど、透明な宝石、特にダイヤモンドは効果が強力な分、全体への影響も大きくて扱いが難しいって話だったはずだね。

「それは『透明』の効果を勘違いしているせいね。いい? 『透明』というのも一つの色と捉えなさい。透明な宝石を通った魔力はそのまま透過されるから透明なんじゃないのよ。『透明な魔力になる』の」
「あっ、あー! なーほーねー! あー、全部理解した!」
「そうか……! 色々納得したぞ。これは目から鱗だな」
「確かに、前やった時さっぱり謎だったところが全部納得いくわ」

 なんだかやっぱり、聞くほどに複雑なシステムみたいだねぇ。

「クスッ。ま、ここまで教えたら後はあなたたち人類種の集合知があればどうとでもできるでしょう? 体系化と分類による再構築は人類種が編み出した英知の結晶ですもの」
「あぁ、そうだな。そうさせてもらうとしよう。これはいい話が聞けたな。リーフィー、ステラ、ありがとう」
「ありがとー二人とも! 後で早速やってみる!」
「せっかくこうして1個掘れたし、あたしもまた挑戦してみようかなー、ありがとね、二人とも」

 ジュエルカスタマイズ……う〜ん……ちょっとまだ僕では手が出ない話かなぁ……。
 まぁでも、宝石一つだけなら、少なくとも宝石同士の干渉は起こらないから、ある程度狙った効果が出せる、はず?
 と思えば、僕もここで運よく宝石が掘れたら一度試すぐらいはしてみてもいいかもしれないね。


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