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note.184 SIDE:G

 一通りの採掘が終わって。
 また次の掘れそうな坑道を探しながら北上だね。

 とまぁ、洞穴を出たところで。
 ドドドドド……と猛烈な勢いで走ってくる何かの気配。

「!?」

 何かと思って僕が振り向いた時には既に目の前まで迫っていたその何かを、しかしミスティスはしっかりと僕より早く反応して受け止めていた。
 リーフィーの加護がかかったミスティスに受け止められて、弾かれて動きを止めたその正体は――

「――!!」
「あー、馬鹿が来た」
「あぁ、馬鹿か……」
「馬鹿ね」
「あー……うん、これは馬鹿……」

 ――鹿の角が生えた馬だった。う、うん……正しく文字通りの馬鹿だったよなんなのこいつ。
 いやまぁ、名前は見た目のまんまディアホーンホースってなってるけども……。

「えーっと……なんでバカなのかしら?」

 とは、一人意味がわかっていないリーフィーの疑問。

「う、うん、僕たちの世界だと馬に鹿って書いて馬鹿って意味だからさ……」
「……なるほど、どういう経緯でそうなったのか、ものすごく興味深いところだけど、そこはこの際置いておくのだわ」

 えーっと……馬鹿って由来は一応故事成語……ってことでいいんだっけ……? 覚えてないけど……。

「っていうか、この谷さっきからダジャレ生物が多すぎじゃない!?」
「そーだよね、みんなツッコむよね」

 じゃんけん虫といい、本当になんなの!?

「まぁ、うん、ツッコんだら負けよ……」
「う、うん……」

 まぁ、そういうことなんでしょう、うん……。

「とりま始めるよー!」

 と、ミスティスが挑発を打ち鳴らす。

 最初思いっきり突っ込んできたし、こいつも猪突猛進系の物理型かと思ったら、

「――!」

 馬鹿が小さく前足を上げて嘶くと、角に魔力の光が灯って、ストーンシュートが飛んでくる。
 意外と魔法型だった!?

「ほいっと〜」

 石の弾丸がマシンガンみたいに数発連射されるけど、ミスティスはむしろ真っ直ぐ突っ込んで、しっかりと全部スピニングパリィで掻き消してみせる。
 そのまま吶喊して斬りつけようとしたんだけど、

「――!!」

 えっ、ルミナスシールド!? しかも、ミスティスの刃自体も首を上手いこと捻って角で受け止められている。
 同時にタイミングを合わせたオグ君からのバーストアローもルミナスシールドでかなり軽減されちゃったみたいだね。

「えっと、意外と頭いい……?」
「馬鹿のくせにね〜」
「私から言わせれば、外界の異世界言語を基準に勝手にバカ扱いされるのもだいぶ理不尽に思うのだけれど……」
「それはまぁ、確かに……」

 うん、まぁ、リーフィーが確かに正論なんだけどさぁ……。僕たちからするとやっぱりどうしても微妙に釈然としないっていうか……。
 えーっと、まぁいいや。

 とりあえず、物理が防がれるなら魔法だね。

「《ブレイズランス》!」

 と思って撃ってみたんだけど、

「――!!」

 プリズムシールドも持ってるの!? 見かけによらず、だいぶ防御寄りの所持スキルみたいだね。

「――――!」

 今度はさっきよりも大きく嘶いて、馬鹿が上空に高く飛ぶ。上からミスティスを踏み潰しにくる軌道だね。
 僕でもわかるぐらいだったその狙いをミスティスが見えていないはずもなく、それ自体は余裕を持ってバックステップで避けた。……かと思いきや、

「っとわ!?」

 着地と同時に馬鹿の周囲の地面から、奴を守るように全周に放射状に土塊の棘が生えてくる。
 自分を中心に防御壁にもなる土塊の棘を発生させる地属性中級魔法、ラウンドスパイクだね。
 地属性らしい攻防一体の魔法だけど、あくまで自分中心の自己防衛用スキルだから、実質ミスティスたちとの固定パーティー状態の今の僕にはあんまり使いどころが見出せなくて、まだ取得してないスキルだねぇ。

 ただのジャンプ攻撃だったら十分余裕のタイミングだったけど、ラウンドスパイクまでは想定に入っていなかったか、ミスティスはちょっと慌て気味に盾で受ける。

「やるねぇ」
「馬鹿なんだけどね〜」
「……もはや敵ながら可哀想に思えてきたのだわ」

 うん、まぁ、どっちも言いたいことはわかるからなんともはや……。

 ともあれ……物理も魔法も軽減スキルを持ってるとは言え、どっちも割合軽減スキルだから、全くダメージが通らないわけじゃない。実際、オグ君の矢も浅いながらも着実に傷は負わせている。
 まぁそれに、

「少し面倒そうねぇ。手伝ってあげるのだわ」

 僕たちにはリーフィーがいるしね。
 彼女がくるりと指先を回せば、馬鹿の軽減スキルが両方とも無効化されて消えたのがわかる。攻撃チャンスだね。

「『《ブレイズランス》』!」

 ステラとの同時ブレイズランスに加えて、オグ君からスパイラルアローが突き刺さり、

「はぃやっ!」

 ひるんだところにミスティスからダブルバッシュが叩き込まれて、馬鹿はフォトンへと還っていったのだった。

「いぇ〜い、まこんなもんかな〜」

 と、ミスティスが両剣を足元に突き立てたのとほぼ同時に、馬鹿のいた場所でコツンと何かが落ちた音がした。

「あれ? 今何か落ちた?」
「お? わぁ〜っ♪ 超ラッキーじゃん!」
「わぁ、やったやった♪」
「モンスタージェムか!」

 ミスティスが拾い上げたそれに、みんなで集まる。
 間近で見ると、それは一見してただのジェムに見えた。けど、見慣れたジェムと違ったのは中心は黄色で外側は茶色という二重構造になっていることだ。これは……?

「モンスタージェム……?」
「極稀に魔物の体内で生成される特殊なジェムのことさ。魔物の力が宿るから、こんな風に二色に分かれているのが特徴だな」
「あぁー……えっと、装備品に魔物の力を抽出できるんだっけ」
「あぁ。やり直しの利かない一発勝負ではあるが、ジュエルカスタマイズと同じく大幅に装備品を強化できる」

 そういえば、そんなシステムもあるって話だったね。
 確か、モンスタージェムって形で結晶化した魔物の力を、装備品に付与して魔物に応じた様々な特殊能力を引き出す、って感じだったかな。

「馬鹿の効果はー……あー、うん、AgiとVit5%ずつかー。誰か使う? 要らなきゃ露店行きだけど」
「ふむ、VitじゃなくDexだったら使いたいところだったが……」
「だよねー」
「あたしもAgiはいらないからいいかなー」
「僕も要らないかな……」

 回避と防御が一緒に上げられると言えばまぁ聞こえはいいけど、一般的なIntとDexの二極型ステータスの僕には意味はない効果だねぇ。

 ちなみに、露店行きっていうのは、ギルドへの売却じゃなくて、王都の冒険者区なんかに多いプレイヤーや専門業者がやってる露店に流す、もしくは自ら露店を開いて直接取引で売却することだね。慣習的に、店舗を持っている商人に売却する時にも「露店行き」と呼んでいる。
 まぁ、モンスタージェムは一度使ってしまうと消滅してしまう、ある種の消耗品ということもあって、冒険者の間でならほとんどどんな効果のものでも数M単位のお金になることは間違いないからね。基本本当に最低限の値段しか付けないギルドへの売却と比べると雲泥の差が出てくる。
 誰も使わないならこのジェムも露店行きってことでよさそうかな。

「ほんじゃ〜これは露店行きね〜」
「おけー」
「うん」
「了解した」

 というわけで、馬鹿のジェムはあっさり露店行きが決まったところで次に進もうか。


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