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note.196 SIDE:G

 リーフィーの枝が思ったよりもとんでもない素材だったおかげで、すごいものが出来上がりそうな予感だけど……

「っということで……マイスくん」
「あ、はい?」

 唐突に、ちょっと真剣な表情で僕に向き直ると、

「私と専属契約を結んでくんない?」
「せ、専属? ……って言うと……?」
「さっきも言った通り、この枝全部を丸々使うと要求Lvがとてもじゃないけど現実的じゃなくなっちゃうからさー。部分部分で何度かに分けて使っていくことになるのよね。だから、この枝を素材に使う時は全部私にやらせて欲しいの。いいかな? 代わりに、この枝を使う時は格安でやってあげる! というか、この枝でものづくりができるっていうならむしろこっちがお金払ってやらせてもらいたいぐらいだよ! それに実際、これが使えるってだけで材料費部分はめっちゃくちゃ抑えられるしね。どう? ね、お願いっ!」

 手を合わせて頼み込んでくるミィナさん。
 な、なるほど……なんというか、僕としてはちょっと尻込みしちゃうぐらい破格の条件だけど……とは言え、さっき提示された資金事情を考えれば、願ってもない条件だね。

「わかりました。むしろ、こちらからもよろしくお願いします。どの道、僕は他の製造職さんの人もよく知らないので……信頼できる人に確実にやってもらえるのならその方が安心できます」

 そう素直に伝えて頭を下げる。

「やったぁ♪ 決まりね! うへへぇ〜……どう使ってやろっかなー、えっへへへへぇ……♪」

 あー……なんかミィナさんが妄想の世界に飛んでいっちゃった……。まぁ、それだけこのリーフィーの枝がすごいものってことだよね。
 こういうところを見るとなんというか、情熱が向かう方向が僕たち戦闘系プレイヤーと違うってだけで、ミィナさんも根っこのところはがっつりゲーマーなんだなぁって感じがするよね。
 ……それはそれとして、このままだと埒が明かないからそろそろ妄想からは帰ってきてもらおうか。

「あのー、ミィナさん?」
「っは……! ごめんごめん……じゅるり……。うん、まぁ、ひとまずはじゃあ、今回のお仕事ね。手始めにってことで、今回の支払いは1Mでやったげるね」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」

 汎用品でも最低5Mぐらいはかかるのに、フルオーダーメイドを1Mでやってもらえるなんて……本当に破格もいいところだ。現状の懐事情からするとすごく助かるね。

「とりあえず今は前金として500kだけもらっておこうかな。残りの500kは成功報酬ってことで」
「わかりました」

 というわけで、一旦500kをお支払い。

「それじゃ、早速始めるねー。今回はー……そーねぇ、要求Lv抑えめだし、一番先端の、この横枝だけ使う感じで十分かな」

 ミィナさんは、庭木の剪定なんかに使うような大型のハサミを取り出すと、ちょうど先端付近から横に枝分かれした一端を根本で丁寧に切り離す。
 元の枝からすれば先端の枝分かれのほんの一部だけと言えど、その先も更にもう何本かに枝分かれしてたり、普通サイズの葉っぱが生えてたりしているから、これだけでももう、一般的なサイズの木から切り出してきた枝の一本ですと言われても違和感はないぐらいのサイズと存在感だ。

「ひゃ〜、ホントにすごいねー。この枝に、そこに咲いてるちっちゃい花を一輪添えただけでももう要求Lv180超えちゃうよ。マージですんごいこれ」

 そ、そんなにすごいんだ……。なんかもうミィナさんの語彙力がなくなってしまっている。

「ほい、今回使うのはここだけだから、残りはまたマイスくんがしまっておいてね」
「はい」

 ということなので、残りの枝は受け取って再びストレージにしまっておく。

「今回はこの枝を頭に使うのでいっかな。っと、そだ、そういえば、まだ複合杖がどういうものかってちゃんとした説明してなかったよね」
「あ、はい、そうですね」

 前回軽い説明は受けたけど、ちゃんとした説明まではまだ聞いてなかったね。

「それじゃ、説明するね。複合杖っていうのは、こないだも軽く言ったけど、弓で言う複合弓と同じで、性質の違う複数の素材を組み合わせることで性能を強化した杖のことよ。まぁ、さっき見てもらった通りお値段は張ることになっちゃうし、装備要求Lvも150ぐらいからが最低ラインになっちゃうんだけど、MVPとかユニークレアを除けば、基本的には同じ装備要求Lvなら単杖より複合杖の方が性能も値段相応に段違いね。
 一番単純な構造としては、杖としての機能の根幹になる魔力の増幅変換器のヘッドと、手元の入出力装置になるボディ部分を分けるだけでもいいんだけど、まぁさすがにそれだけだと手間に比べて性能の上昇具合が微妙すぎるから、最低でもボディの中に芯材を仕込んで魔力の増幅率と最大流量を追加で引き上げるぐらいまではやるのが普通かな。私はそれにプラスで握りの部分より下側、ボトムも素材を変えて、全体の魔力の流れを整えるところまでやるのを基本にしてるね〜」

 握る部分よりも下側……ってそんな言うほど意味があるものなのかな? あんまりピンと来ないんだけど……

「魔力の流れ……って下側を変えるだけでそんなに全体に影響するんですか?」
「するよー。性質の違う素材を色々組み合わせる以上、どうしてもそれぞれの素材の間で魔力の流れ方とか流量とかが変わってきちゃうのは避けられないからね〜。分かりやすく道で例えるなら、それまでアスファルト舗装だった道が急に砂利道になったり石畳になったり、路地裏から急に大通りに出ちゃったり〜的なイメージかな。そうなるとどうしても、舗装路が砂利道になって流れが遅くなって詰まっちゃったり、道幅が急に広くなって流れに変なうねりが出ちゃったりとかしちゃうわけよ。ボトムの部分はそーいう素材の差による歪みを調整する余剰スペースとして使えるってわけ」
「なるほど、わかりやすいです」

 道の例えはわかりやすいね。確かに、単杖の素材の違いだけでもあれだけ魔力の感覚に違いがあるんだから、素材を複数組み合わせればいろんなしわ寄せも出てきそうなのはなんとなく想像がつく。そのしわ寄せを吸収してくれるスペースとしてボトム部分を使うってことだね。

「もっと拘る時には、石突――パーツの分割としてはフットって呼ぶんだけど――フットも別の素材にして魔力の流れの折り返しの部分をスムーズにしたりとか、ヘッドとボディの間に更に中間材のネックを挟んで、手元からヘッドまでの初動の魔力の立ち上がりを整えたり、色々分割を細かくしてく感じだね。まー当然、細かく分けるほど手間も工数もバッキバキに増えてくから、その分お値段もすんごいことになるけどね〜」
「うへぇ〜……」

 そうなると、高Lv用に部品数を多くしたフルカスタム品とかになればそれこそ一本でウン十、ウン百Mとかそういう世界になってくるんだろうなぁ……。なんとも末恐ろしい話だ。

「まー大体の概要はそんな感じでいいかな。それじゃ、作ってこっか」

 そう言って、ミィナさんは素材をまとめてあるらしい木箱型のアイテムボックスを漁り始める。
 いよいよ製作開始だね。


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