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note.197 SIDE:G

「まー大体の概要はそんな感じでいいかな。それじゃ、作ってこっか」

 いよいよ製作開始だね。
 そう言うと、ミィナさんが素材をまとめてあるらしい奥の木箱からいくつかの素材を取り出して持ってくる。

「ヘッドはこのリーフィーちゃんの枝を使うから、次は握りになる部分、ボディね。手元と杖とで魔力をやり取りする入出力装置になる部分だからね〜。ここと芯材との素材の組み合わせ次第で、魔力の伝達効率とか付与できる効果とか、何より魔力を流した時の感触全体に一番影響が大きい部品だから、私はここは必ず本人に魔力を実際に流して確かめてもらいながら決めてるの。そんなわけで、これが今のマイスくんで使える素材ねー。まずは芯材なんだけど……実のところ、マイスくんのLv帯……150から大体250ぐらいまでって、芯材はほぼ一択なのよ。これがその芯材、霊綺水晶ね」

 取り出されたのは、内部に煙を充満させたかのような、ほんのわずかに半透明な白い六角柱状の結晶。

「洞窟系ダンジョンなら比較的どこでも取れて、基本この形の状態で出てくるから加工も必要なくって入手性もコスパも抜群、そんで性能もそれなりに優秀でバランスがいい伝達率と出力で、魔力の感触も癖がないって初心者に評判がいいの。
 他の芯材もまーあるにはあるんだけどね〜。芯材に加工する手間の割に霊綺水晶と比べても別に言うほど大差なかったり、性能が尖ってたり、その尖ってるにしてもこのLv帯じゃたかが知れてるとか、わざわざ選ぶほどじゃないのよねー」
「ははぁ、なるほど」
「ちなみに、この煙を閉じ込めたみたいな見た目で、昔は中には霊魂が閉じ込められてるって迷信があったからこんな名前らしいよ」
「あー、それはちょっとわかる気がします」

 確かに、何も知らない昔の人がこれを初めて見たらそう思っても不思議はなさそうな感じのもやもや感だね。

「てことで、芯材は霊綺水晶でいいとして……次はボディね。ここが一番好みが分かれるとこでねー。一番ベーシックなのはやっぱりこの世界でも樫材なんだけど……うん、まー実際やってみるのが早いかな。マイスくん、これに試しに魔力通してみて?」
「はぁ、はい」

 何故か微妙に言い淀んだミィナさんに、サンプル用らしい既にぴったりハマる穴を開けられた木材にさっきの霊綺水晶をはめ込んで渡される。
 えっと……? まぁ、言われた通りやってみようか。
 ……うん……うん……あー……うん…………何を言い淀んだのか理解した……。

「これ……なんというか、癖がなさすぎて虚無を掴んでる感覚になりますね……」
「ですよねー」

 すんごいその、空を掴んでるというか、無を取得してる気分になる……。なるほど、あんまりにも癖がなさすぎるというのも……性能面はともかく、魔力の操作感的には好みの問題があるってことね。

「この組み合わせが一番ベーシックではあるんだけど、癖がなさすぎて虚無感があるってみんな言うのと、やっぱりベーシックすぎて性能も平々凡々にしかならないのがねー。てわけで、ここの選択で個性を出していくのがこのLv帯の定番ね。後はマイスくんが性能面で何を重視するかでいくつか候補を絞って、その中から魔力の感覚の好みでーってのがよくやるパターンかな。ってことだから、まずは性能面の希望が聞きたいな。IntとかMPが欲しいとか、伝達率が高い方がいいとか、なんでもいいよー」
「あー、それなら、今はMPが多めに欲しいですかね」
「おっけおっけ、そーすると、素材的にはこれかー、これかー、この辺もあるかなー、後はこれもっと……じゃ、まずはこれから試してみよっか」

 箱から持ってきてあった素材からいくつかを選り分けて、その一つに霊綺水晶をセットして渡される。
 さて、どれどれ? これは……う、う〜ん……

「なんか、この魔力の半端なざらつきが……背筋にぞわっとくる感じでちょっと僕には合わないですね……」
「おっけ、次ね」

 一旦素材を返すと、霊綺水晶を別の素材に入れ替えてまた渡してくれる。
 これは……あー……

「なんだか妙にぬるっとした感覚が……あんまり好きじゃないです、これ……」
「おっけ、じゃ次はこれねー」

 と、その後もいくつかの素材を試してはみたんだけど……

「う〜ん……どれもしっくりこない……」

 なんというか、魔力の感覚の好みで言うといまいちピンとくるものがないんだよねぇ……。

「う〜ん……そーねぇ……。あっ、いいこと思いついた!」

 何を閃いたのか、「ピコーン!」なんて効果音つきで頭上に豆電球が見える勢いで平手を拳で叩くミィナさん。

「せっかくこんなにいい素材を使って作れるんだもん、そもそも作るものが最低ラインLvの150なんてもったいないよ! っというわけでぇ……完成品の要求Lvを180に引き上げます!」
「えっ!?」
「マイスくん、ちょっと今から素材から調達しに行ってみよっか」
「えぇっ!?」
「だ〜いじょうぶ、ちゃ〜んと今のマイスくんのレベリングにもぴったりの素材を考えてあげるから♪」
「えぇ……」

 こ、これはまた予想外の展開に……!?

「第一、霊綺水晶にしても、今手元にあるのはそれこそサンプル用のテキトーな品質のだけだもん。やっぱり素材としてはもっとちゃんとした高品質のやつが欲しいし、元が棒状だからそのままでも使えるってだけで、本当は一手間かけてきちんと円柱状に加工した方がもっと性能はあがるんだよね。ってわけで――」

 とまで言いかけて――しかし、その言葉は突如鳴り響いた鐘の音によって遮られた。
 それとほぼ同時に、僕の胸元のオーブからホログラフが表示されて、更にシステムからも通知が来る。

「ちょ、え、何!?」

 何事!? 一度にいっぱい起こりすぎてもう何がなんだかわからないよ!?
 えっとえっと、ホログラフの表示は……

「えっ、緊急招集!? アミリアから!?」

 「カン、カン、カン」と三回の鐘を一定間隔で鳴らすこれは……魔物の襲撃警報だっけ……? ただ、この鳴らし方ならどこかに避難しろとか程じゃなくて、収まるまで街の外には出るな、程度の軽いやつだったかな。
 こういう時の鐘の鳴らし方は、場合によっては国も越えて方々を回る行商人なんかが何処にいても状況がわかるように、一応この世界なりの共通規格みたいなものがあるらしくて、それなり以上の規模の街であれば大体は統一されているらしい。さすがにこの世界の情報伝達だから、通達が行き届ききれてないような辺境の小さい村とかになると例外はどうしてもあるみたいだけど、少なくとも地名がついてて冒険者が拠点にできるような規模以上の町であればそれなりに統一できてはいるらしい。

 それと、ホログラフで出てきた緊急招集……。システムの方の通知を見ると……えっ、アミリアでスタンピードイベント!? 参加可能Lvが110〜160……なるほど、それでLv152の僕にもギルドからオーブに招集の通達が来たんだ。
 Lvが範囲外だからオーブからの通達はきてないみたいだけど、システム通知はプレイヤー全員に届いているようで、ミィナさんもウィンドウが出ているのだろう空中を確認しているようだ。

「おー、スタンピードイベントか〜。いいレベリングになるじゃん。先に行っといで〜。多分結構かかるから、話の続きはまた明日でいいよ」
「あ、はい。わかりました」

 そういうことなら、遠慮なくイベントの方に行かせてもらおうかな。


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