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note.198 SIDE:G

 ミィナさんと複合杖の相談をしていたら、鐘の音と共に唐突に始まったスタンピードイベント。
 ミィナさんにはイベントの方に行っていいって言われたから、遠慮なくそうさせてもらおうかな。
 と思ったところで、

『スタンピードだ〜♪ 行くよマイス〜!』

 ミスティスからもパーティーチャットが飛んでくる。

「あ、ちょっとパーティーチャットが……」
「あー、チカちゃんね?」
「はい」

 一旦断りを入れてミスティスに返答する。

『うん、こっちはいけるよ、いつでも大丈夫』
『ふむ、スタンピードイベントか。今のマイスとミスティスならちょうどいいレベリングだな。なら、僕らは一旦パーティーは離脱しておくとするか。どの道僕らはLv帯が外れているし、戦闘中の連絡の邪魔になるだろうからな』
『そーね。二人とも、頑張ってね〜!』
『うん、ありがとう。行ってくるね』
『おけー、ありっと〜、行ってくる!』

 というわけで、オグ君とツキナさんがパーティーを離脱して、久方振りに僕とミスティスの二人パーティーになる。

『あー……ティッサ森からのスタンピードかぁ……うん……』

 オーブのホログラフはさすがにギルドのマザーオーブと違って簡易的な機能なので、緊急招集の発生とアミリアからの通達であることぐらいしか表示してないんだけど、ゲームシステムの通知にはしっかりマップが表示されて、スタンピードの発生地点と集合地点であるアミリアがそれぞれのアイコンとエフェクトで強調表示されている。
 そっか、発生源がティッサ森だからすぐ隣のこの王都にも警戒の鐘が鳴らされてるんだね。

 ところで、ミスティスのそのちょっと微妙な反応は何……?

『マイス今どこー?』
『今はミィナさんのお店だよ』
『オッケー、ならちょうどいいや。私もいっぺんそっち合流する〜。ちょっと待ってて!』
『わかった』

 アミリアに直接集合じゃなくて、一度ミスティスがここに来るらしい。

「えっと、ミィナさん、ミスティスが一度ここに来るらしいんで、少し待たせてもらいます」
「あ〜、うん、今本人からもWisが来たよ。まぁうん、なんとな〜く理由は察したから……ちょっと待っててね」

 と、ミィナさんもミスティスから何を聞いたか、店の奥、さっきの素材が入っていた箱とは別の箱を漁り始める。

 そうしていると、程なくしてミスティスが現れる。

「やっほ〜、マイス、ミィナ、来たよ〜!」
「ミスティス」
「待ってたよ、チカちゃん。はいっ、欲しいのはこれでしょ?」

 店に着くなり、ミィナさんが引っ張り出してきたのは……弓?

「おぉ〜、さっすがミィナ! 話が早ぁい♪ あ、お代は後でチカの方にツケといて!」
「はいはい。スタンピードいってらっしゃ〜い」
「ありっと〜」

 なんて、手早く弓を受け取ったミスティスだったけど……

「えっと、なんで急に弓……?」
「いやぁ、だってほら、ティッサ森からのスタンピードだと……ね……」
「あー……」

 なるほど、ティッサ森が発生地となると、多分虫系Mobがメインだろうからねぇ……。前回攻略した時は、あそこのMobはまだ大丈夫って言ってたけど、さすがにスタンピードでわらわらと大量に来るとなると絵面がキツいって感じかな。
 まぁ、前に弓のお手本としてアドリブでゴーレムを射抜いてみせたあの腕があれば、本人の言う通りステータスなんて関係なく弓手の仕事はできるんだろうしね。

「それと、武器更新が後回しになっちゃったマイスくんには、それじゃそろそろ物足りないだろうから、私から試供品をレンタルしてあげる」
「えっ、いいんですか?」
「いいって言うかむしろ、私の方が使ってみた感想を教えて欲しいのよ。思いつきで試しに作ってみた試作品なんだけど、私は戦闘職としてはマジシャン系じゃないから実際意味があるのかどうかわかんなくてね〜。これなんだけど……」

 そう言って、ミィナさんが取り出した杖は、ちょっと奇妙な形をした複合杖だった。
 というのも、

「これって……ナックルガードですか?」

 サーベルとかレイピアなんかの細身の剣でよく見るような、手元を守るためと同時に装飾品的な意味合いもある、鍔から柄頭を繋ぐアーチ状の部品、ナックルガードとかハンドガード、護拳とか呼ばれてるパーツだね。それが杖にくっついている。

「そー。剣にはよく付いてるじゃない? けど、杖に付いてるのって意外と見かけないなーって思って試しに作ってみたんだけどね」

 確かに、杖にナックルガードがついているのはこの世界ではちょっとありそうでなかった発想かも?
 それにその構造も、ただ手元にアーチをつけたってわけじゃなくて、ヘッドの根本をわざと楕円形にして出っ張らせた部分と、ボトムのボディとの接続部近くに、おそらく元は枝分かれの部分だったのだろう瘤を加工して出っ張らせた部分を作って、その二ヵ所を両端とする形で、「横に思いっきり引き延ばした凸型」とでも言う形の細い棒がつっかえ棒みたいに差し込まれていて、まるでボディ部分が二本あるかのような不思議な造形になっていた。

「それにしても不思議な形ですね」
「まー最初はシンプルに剣に着けるのとおんなじマグカップの取っ手みたいなのをくっつけてみたんだけどね〜、杖でそれだと、セージの杖術に使えなくなっちゃうっぽいのよ。突けば槍、薙げば薙刀、打てば剣っていう、フレキシブルな切り替えを戦いの中に織り交ぜられるのが杖の真髄らしくって、そのためにこう、扱いて繰り出すっていう動きを結構多用するらしいんだよね、杖術って。こー……」

 そう説明しながら、ミィナさんがそれっぽい長さの棒を取り出してやって見せてくれたのは、左に腰だめに槍みたいにして構えた棒で突き攻撃を繰り出して、その突き出しの時に右手を動かさずに置くことで、まさに「扱いて繰り出す」とでも言うような動作で刺突の動きから即座に剣のような構えに切り替えて上段から振り下ろし、そこから袈裟斬りに移行……するように見せかけて、左手だけを大きめに引くことで再び槍に似た構えに切り替えて、薙刀でも振るうように横一文字に薙ぎ払う、というような一連の流れ。
 これはなるほど、

「あー、確かに、今のみたいな持ち手の位置がスルスル変わるような動きに普通の剣みたいなナックルガードがついてたら邪魔ですね」
「でしょ? まー今のはぶっちゃけ私のうろ覚えでそれっぽくしてみただけだけど、大体のイメージとしてはこんな感じで合ってると思うよ。ま、ともかくこーいう感じの動きに普通のナックルガードじゃ邪魔にしかならないわけよ。んじゃいっそ握りになる部分全部長〜く覆えるように伸ばしちゃえっていうごり押しでとりあえず試作してみたのがそれってわけ」
「な、なるほど」

 まぁ、うん、強引だけど一番シンプルな解決策ではある。実際杖術用としての使い心地はセージじゃない僕にはわかんないけど……。

「そんでまぁ、杖術の使い勝手はセージの人にちゃんと頼むつもりではあるんだけど、マイスくんにはとりあえず純粋に杖としての使い心地とか、杖にナックルガードつけて実際意味があるのかとか、普通に使ってもらった感想が欲しいの。まずはそもそも杖として実用的じゃないと、杖術も何もあったもんじゃないもんね。まー詳細見ればわかるだろうけど、少なくとも杖としての機能に破綻はないはずだし、普通に複合杖として相応の性能は確保してあるから、そこは安心して使っていいよ〜」

 実際にアイテム詳細を確認してみると……

「わっ、えっ……す、すごい……! 複合杖ってこんなに性能違うんですか」
「そーよー。一番基本的な作り方と汎用素材だけで要求Lv150の最低ラインで作って大体それぐらいの性能ね」

 これでも最低ラインなんだ……。すごい……今のエニルムスタッフ+3と比べるとそもそも基礎の魔法攻撃力の数値の時点で既に倍以上違う……! それに加えてMAtk(魔法攻撃力)+50にMMP(MP最大値)+10%、Dex+5の追加効果までついている。本当に単杖とは段違いの性能だ。

「スタンピードイベントなんて、実戦試験にはピッタリでしょ。マイスくん的にも複合杖ってのがどういうものか、ちょうどいいお試しになるはずよ。まそーいうことだから、ちゃちゃっと使ってみて感想よろしくね〜」
「わかりました。使わせてもらいます、ありがとうございます」

 システム上の装備品をエニルムスタッフから受け取った試作杖に切り替えて、ミィナさんに頭を下げる。

「よっし、じゃいくよマイス! 一応、招集の受付時間もあるからね!」
「うん。それじゃあミィナさん、行ってきます」
「またねミィナ〜」
「いってらっしゃ〜い、頑張ってねー!」

 最後に軽く挨拶を交わして、ミスティスと二人、アミリアに向かうべくストリームスフィアへと急ぐ。
 スタンピードイベント……ランダム発生の常設型イベントではあるとは言え、僕としては初めてのゲーム内イベント参加だね。
 どんな戦いになるか、そしてどれぐらいのレベリングになるのか、今から楽しみだね。


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