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note.201 SIDE:G

 一通りの作戦説明も終わって、パーティー登録のためにジャスミンさんが回ってきてくれるのを待つ。

「すごいんですよ、あれからエイフェルちゃんの弓がものすごく改善されまして」
「ホントホント、おかげでアタシもめっちゃ戦いやすくなって、連携も前より全然よくなったんだから!」
「全部ミスティスさんのおかげですよ。本当にありがとうございました」
「おー、うんうん、頑張ってるみたいだねぇ」

 なんて、適当に雑談してたんだけど……

「なぁおい見ろよあれ」
「ハーレムじゃねぇかちくしょーうらやま!」

「あそこ、いいなぁ」
「チッ、あんな可愛い子ばっかり4人も囲いやがって……!」

 う、うん、なんか……聞き耳のエクストラスキルのせい?……でなのか、このみんな小声気味の状況だと周りの余計な会話も聞こえてきちゃってる感が……。
 ……とか思ってたら、リーフィーに突然耳元で囁かれる。

「クスクスッ、言われてるわよ、マイス」
「って、リーフィー!? さっきから、君のせいだよねぇこれ!?」

 わかった、加護の悪用か何かで聞こえる音を操作されてたねこれ!? 道理でさっきから妙にやっかみみたいな声ばっかり聞こえてくると思ったら……!

「あぁ〜んごめんなさいぃ〜! 力が抜けちゃうからその視線はやぁ〜めぇ〜てぇ〜〜〜……」

 僕のジト目でふにゃふにゃと墜落して上目遣いの涙目でぺたん座りになるリーフィー。
 まったくもう……まぁ、反省はしたみたいだから今回はこの辺にしておいてあげよう……。

「えぇっと……?」
「いやぁ、うん、こっちの話、うん……」

 このやり取りも初めて見るエイフェルさんたちが、何が起きたのかちょっと困惑気味に覗き込んでくるけど……うん……ごめんけど聞いちゃった内容が内容だけに、僕としてはとりあえず視線を彼方に放り投げて誤魔化すしかないかなぁ……うん……。

「あー、うん、いつものことだから気にしなくてい〜よ〜」

 僕の遠い目で何かを察したらしいミスティスは、そう生温い視線で手をひらひらさせる。
 うん……ちょっと今はそっとしといて……。

 それにしても、今は本の姿のステラはともかく、結構派手に飛び回っているのに誰もリーフィーの存在を気にしてないみたいだし、さっき聞こえた会話でも僕以外は「4人」と言われてた辺り、彼女の存在は僕たちしか認識できていないらしい。こういうところはさすがは妖精、って感じだね。

 なんて、そんなこんなしていると、ようやくジャスミンさんが僕たちのところまで回ってくる。

「こんにちは」
「こんにちは、ジャスミンさん」

 と、とりあえずそれぞれで挨拶する。

「こちらはミスティスさんたちとエイフェルさんたちで計6名でのパーティー登録でよろしいですか?」
「6名……?」

 ジャスミンさんが告げた人数に、謡さんが不思議そうな声を上げる。
 まぁ、そうだね、一見すると、エイフェルさんたち3人と僕とミスティスの2人で合計は5人だもんね。このことも伝えておかないと。

「人の姿のステラの説明が難しいから、ステラも形だけ冒険者として登録してあるんだ」
『ん』「私も一応冒険者」
「な、なるほど」

 僕が説明すると、人の姿に戻ったステラが軽く顔を上げて首元のオーブを見せる。
 まこさんにもらった白ワンピースをすっかり気に入ったらしい今は、オーブは服に合わせた白いチョーカーの形で金細工にはめ込まれて首元に着けられている。

「そういうことですね。ですので、こちらのパーティーはステラさんを含めて6名として登録します」
「おけー」
「パーティーリーダーはどちらにしましょうか?」
「それは……ミスティスさんにお願いしていいですか? 私たちは入れてもらった側ですし……」
「いいよ〜。んじゃ、私がリーダー〜♪」
「わかりました。では、ミスティスさんをリーダーとして6名で登録します。皆さん一度ずつマザーオーブに触れてください」

 とまぁ、この辺はオグ君たちと初めて組んだ時にもやったパーティー登録の流れだね。
 僕たち全員がマザーオーブに登録した後、ジャスミンさんの操作でパーティーが決定されると、全員のそれぞれのオーブからホログラフが表示される。どうやら僕たちは「2-I1」班ということになったらしい。

「皆さんの割り当ては2-I1班です。バックアップ班の緊急対応はこの識別番号で指示しますので、忘れずに覚えておいてくださいね」
「はい」

 ジャスミンさんからの確認に各々答えると、

「では、パーティー登録の作業完了までこの場で待機していてください。よろしくお願いします」

 と、事務モードで一つお辞儀して、ジャスミンさんは次のパーティーの元へと向かっていった。

 程なくして、全員の登録が終わったようで、もう一度ジャスミンさんがカウンター前に戻ってくる。

「さて、皆さん。全員のパーティー登録完了を確認しました。加えて、パーティー登録と同時に皆さんのセーブ地点を作戦領域後方の休息拠点に設定してあります。現地で一旦全班で集合ののち、準備の時間を設けてから出撃となります。尚、このセーブ地点変更は本作戦中のみの一時的な措置ですので、作戦終了後に拠点の解体と共に自動的に元々のセーブ地点に戻ります。ご安心ください。それでは、伝達事項は以上です。各自ストリームスフィアから拠点への移動をお願いします」

 と、ジャスミンさんがお辞儀で話を締め括ったことで、一気に室内には冒険者らしい喧騒が戻り、出入口に近いパーティーからぞろぞろと外に出ていく。

「よ〜っし、んじゃうちらもいこ〜」

 ミスティスの音頭で僕たちもギルドを出てストリームスフィアへ向かう。
 おそらく外に集められた3班の人たちもまだ移動しきっていなかったのだろう、人でごった返す中をなんとかくぐり抜けてストリームスフィアの前へ。いつも通り移動しようとしてみると……なるほど、普段であれば移動先選択のためにユクリの全体マップが出てくるホログラフのウィンドウだけど、今回はさっきの説明にも使われた作戦領域の概略図が表示された。
 今移動できるのはジャスミンさんの指示通り、休息拠点エリアのストリームスフィアだけになっているみたいだね。
 まぁ、他に選択肢がないんだからまずはここに飛ぶしかないね。

 ひとまず移動してみると……なるほど、転送された先は休息エリアのストリームスフィアを挟んだ防壁側、壁までは目測1000メートルぐらいはありそうな緩衝領域になっている平原だった。
 概略図だけではイメージしきれてなかった想像以上の広さと、3つの班が全員集まってくる人数の多さに、みんなで思わず辺りを見回す。

「おぉ〜、さすがにすんごい人数だねぇ」
「思ってたよりもずっと広いです……!」
「人数を見るとなんだか緊張してきますね……」

 とは、ミスティスと謡さん、エイフェルさんの率直な感想。
 そんな話をしている間にも、着々と人数は増え続ける。

 そうして、全員が転送され終わったらしいところで、ストリームスフィアのちょうど真裏辺り、集団全体のちょうど中央正面で地面が盛り上がって成形されて、簡易的な演壇が出来上がる。
 当然に全員の注目がそこへ集まる中、登壇してきたのは――かなりガタイのいい初老のドワーフの男性。女性だと人間の腰元辺り、男性でもせいぜい人間だとへそ辺りまでぐらいの身長が平均のドワーフの中でも、この人は人間の肘ぐらいまでの身長はある感じで、ドワーフとしてはかなり大柄であるとわかる。更に、ドワーフであることを差し引いても恐ろしいぐらいに鍛え抜かれていることが素人目にもわかる、「筋骨隆々」という言葉を体現したかのような体躯。そして、いかにもドワーフらしい、顎下からもみ上げまでつながった髭面に、牛のような角がついた兜と、防御力と動きやすさを折衷したのだろう革鎧一式の装備。何より目立つのは、右肩に担いだ、ドワーフとしては巨体と言っていいだろう身体とほとんど同じぐらいに見える超巨大ハンマー。
 この人は――

「総員、集まったな! アミリアギルドマスター、ゴゥ・ズィーファンだ!」

 ――そう、アミリアギルドのギルドマスター、ゴゥ・ズィーファン氏。プレイヤーの間でのあだ名は誰が呼んだか名前を捩って「5時半」さん。基本みんなからはギルド長とかギルマスと呼ばれている。僕は直接見るのは初めてだけど、色々と伝え聞く噂話とスクショやらで顔と名前は覚えている人だ。
 なんでも、冒険者として現役だった頃はあのわかりやすい得物そのままの「大槌」の二つ名で広く知られた、それなりに有名な人だったそうで、やれ山をかち割っただの、巨大なドラゴンを一撃でぺしゃんこに叩き潰しただの、嘘かホントかよくわからない逸話がいくつも残っているんだとか……。そんなすごい人なので、引退の際には当初、ギルドのユクリ支部の支部長に推薦、なんて話もあったらしいんだけど、まぁ見るからに察しはつく通り、事務仕事は向かないからと断ったものの、さりとてどうにか引き止めたいギルド側の要望を完全に無視するわけにもいかず、折衷案としてアミリアのギルドマスターというポジションで落ち着いた、ということらしい。

「状況は既に聞いているな! 今回お前らがここに集っている理由は様々あるだろう。純粋にこのアミリアを守りたい奴、ただ単に金のため、強くなるため、戦いのため、理由はそれぞれだろう。出身だって、このアミリアで生まれ育った奴もいれば、他から流れて来た奴も、なんなら今じゃ住んでる世界すら違う奴らだって大勢いるだろう。だがそれでも、お前たちはこうしてここに集まった! それは、理由はどうであれ、このアミリアの地に対して多かれ少なかれ思い入れを抱いているからこそだと、俺は信じている! なればこそ、あえて宣言しよう。この戦いは、アミリアの存亡を賭けた戦いである! お前らが失敗すれば、このアミリアの地は奴らに蹂躙され、消えてなくなるものと心得ろ!
 ……と、まぁ、脅すような物言いになっちまったが、気張りすぎることもない。言っちまえば、ティッサ森からのスタンピードなんてもんは定期的に起こるもんだ。その度に俺たちは退けて来た。俺たちギルドにはそれら過去の膨大な経験と知恵が蓄積されている。ここに集められたのは、その過去の統計からお前たちならば十分に奴らを殲滅しきれると見込んだ面子だ。少なくとも、手も足も出ねぇなんてことには絶対にならん。つまるところ何が言いたいかっつぅとだ……お前たちならば必ず勝てる! 自信を持って叩っ潰せぇっ!」
『うおおおぉぉぉぉーーーっ!!』

 最後に大槌を掲げてそう叫べば、鼓舞されたみんなからも同じように武器を掲げての歓声が上がる。
 振りかざした大槌を杖にするように地面に降ろせば、ズシンと振動がこちらにまで伝わって、その重さを物語る。
 それを合図に歓声が一通り収まったところで、

「よぉしいいか! 現時刻を以て15分後に作戦開始とする! 戦闘班、バックアップ班はそれまでに拠点で準備を整えて戦列にて待機せよ! 以上、解散!」

 それだけを簡潔に告げてゴゥギルド長が演壇を降りるのに合わせて、みんな一斉に各々の準備のために拠点エリアへと動き始める。

 さてと、僕たちもバックアップ班からのスタートになるから、15分で準備を済ませて待機しておかないとね。まずは拠点エリアに向かおうか。


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