戻る


note.202 SIDE:G

 さてと、15分後に作戦開始だから、バックアップ班の僕たちも急いで準備を整えないといけないね。
 同じように準備に向かう人の流れに乗って拠点エリアへと歩く道すがら、システムウィンドウからインベントリを確認する。
 う〜ん……昨日のジュエルイーター戦で結構消耗してるなぁ……。そうでなくても、これからバックアップ班と続けて戦闘班も担当する2時間の長丁場になることを考えれば、いつもよりも少し多めの物資が欲しいことは間違いないね。
 とまぁ、その辺の確認も済んだところで、ちょうど出店形式になっているショップエリアに辿り着くと、列の整理をする呼び込みの声が聞こえてくる。

「皆さーん、在庫は十分な数を用意してますー。焦らずに並んでくださいー」
「今日は俺たち道具屋も全面協力だ! 売り物は全部共有してるから、どこに並んでも品質は同じに揃ってるぞ!」
「人員も出られる人は全員総出で来てもらってるんで、均等に並んだ方が捌けるのも早いっすよ〜!」
「さぁ買った買った!」

 マリーさんの「てんとう虫」の他にもいくつかあるアミリアの冒険者用の道具屋の人たちも全員来ているみたいだね。
 売り物は共有してるってことだから、多分ポーションに関してはどこに並んでもマリーさん印の高品質のものが買えるんだろうね。
 ……まぁ、その点を抜きにしてもやっぱりマリーさんのところの列が他より気持ち長くなってるのは、うん、気持ちはわかるよ、うん……。

 ちなみに、普段はポーションの品質の良さとマリーさんの容姿と人柄で「てんとう虫」が一番人気なのは間違いないんだけど、他の店舗もポーション以外の部分で特色を出すことで一定の需要を獲得して共存している。ポーション以外の道具――ジェムとかの消耗品とか野営や採取の道具なんかの品揃えが良かったり、基本的な武器防具まで一通り取り揃えてて駆け出しの冒険者には御用達のお店になってたりとかね。

 とりあえず……僕たちもマリーさんのところで並んじゃおうか、うん。

「いらっしゃいませー、皆さんこんにちはー」
「こんにちはー、マリーさん」

 ひとまずはみんなそれぞれに挨拶を交わす。

「こんにちはマリー! 今日は忙しそうね」
「リーフィーさんー。はいー、お陰様でー」

 と、リーフィーも姿を表して挨拶する。

「さてー、こんな時なので、ゆっくりお話する時間はありませんがー。ご注文をどうぞー。ポーションはもちろん私製ですし、今日は皆さん協力して頂いてますのでー。普段の私のお店では扱っていない種類の刻印魔石(シーリングジェム)も豊富に取り揃えてますよー。在庫も十分ですし、値段もいつもよりお安めにしてありますー。遠慮なくしっかり準備を整えて、是非とも私たちのアミリアをお守りくださいー」
「まっかせといてー! バッチリ蹴散らしてきてあげるから! あ、注文はねー――」

 いつもの調子で安請け合いしたミスティスに続いて、僕たちも必要な分を買っておく。
 僕は長丁場を考えて、HPとMPそれぞれのポーションをいつもの1.5倍の量、30個ずつを買っておいた。あとは、僕のLvだとまだちょっと1本当たりの回復力が過剰すぎて値段に釣り合わなくて、普段は買っていなかったハイポーションを保険のつもりで少し奮発して2本ずつ買ってみた。
 今の僕だと、MPのハイポーションは1本でほぼ9割ぐらいを一気に回復できるし、HPに至っては完全に回復力過剰で丸々2ゲージ分ぐらいの回復量がある。完全にコマンド式の旧世代ゲームと違うフルダイブVRゲームならではの利点として、アイテムショートカットを使わず「実際に瓶から飲む」ことで「飲んだ分だけの効果を発揮させる」ことができるから、半分だけ飲んで回復量を余すことなく2回分として使うことはできるけど……。後衛の僕がこれを使わされるような事態にはあまり陥りたくはないのが本音だね……。
 まぁ、この4本はそんな事態にはさせないための戒めだとでも思って、改めて気合を入れよう。その意味も込めて、ハイポーションはHPとMP1本ずつをアイテムショートカットに入れておく。

「それでは、いってらっしゃいませー。私たちはこの拠点から、皆さんの無事の帰還をお祈りしていますー」

 マリーさんの見送りにそれぞれ返答を返しつつ、拠点移動用のストリームスフィアへと歩を進める。

「いよいよですね……!」
「……うん」

 ストリームスフィアを前に、幾分緊張した面持ちのエイフェルさんたちが拳を握り締める。
 なんだかんだ結構な時間列に並んでいたこともあって、気づけば作戦開始時刻まで残りは3分ぐらい。今からワープして配置に着く頃にはちょうどいい時間ってところかな。

「さ〜、楽しい楽しいパワーレベリングの時間だよーっ♪」

 と、こっちは打って変わって特に気負いもなくいつも通り……いや、なんなら明らかにいつもより高めのテンションで盾付きの両剣を掲げたミスティスが、いの一番にストリームスフィアに飛び込んでいく。
 う、う〜ん……僕はこれ、どっちにテンション合わせればいいんだろうか……。
 あー……まぁ、うん、そんな調子でミスティスはさっさと前線へ飛んでしまったので、僕たちも追いかけようか。
 えーっと……なるほど、一応パーティーの識別番号である程度それっぽい位置に飛ばしてくれるみたいだね。そういうことなら特に気にせずに、最初の防衛ラインの前に飛んでしまえば良さそうだね。

 というわけで、ミスティスに数瞬遅れて前線へ。
 飛ばされた地点は……なるほど、壁からはほんの20メートルぐらい、本当にすぐ目の前って感じの位置だね。前を見れば、200メートルぐらい離れたところで戦闘班ももう大体の準備は整っているらしい。見た感じ、両隣の他のバックアップ班パーティーとも適度な間隔が既に取れているからお互いの戦闘にも支障はなさそうだし、僕たちバックアップ班の方も準備は万端ってところかな。

「うぅ……き、緊張してきました……」
「わ、私もです……」

 エイフェルさんと謡さんが武器を手に、緊張に身体を強張らせる。けど、ミスティスはどこ吹く風だね。

「あっははっ、気持ちはわかるけど、そんなに緊張しなくてもヘーキヘーキ! うちらはバックアップ班だから最初っから直接戦うわけでもないんだしね〜。今からそんなに気合入れっぱなしじゃ、うちらに戦闘班が回ってくる頃にはヘトヘトんなっちゃうよー? ほらほら、肩の力抜いて、リラックスリラ〜ックス」
「あ、は、はい、そう思えば、それはそうですよね…………すー……はー……うん、よしっ。落ち着きました、もう大丈夫です、ありがとうございます」
「そうでした……ちょっと気負いすぎてたかもしれません。ありがとうございます」

 ミスティスが笑い飛ばしながら二人の肩を叩いてあげたことで、二人の緊張もいい感じに解れてくれたようだ。

「まーでも、いつ前線が崩れるかもわかんないから完全に気を抜ききれもしないのがバックアップのだるいとこだよねー」

 なんて、当のミスティスは例によって勝手に何かに納得したようにうんうんと頷く。

 そんなこんなで、作戦開始の時刻まで残り5秒……となったところで、防壁の中央からゴゥギルド長の声が戦場全体に響いた。

「よぅしお前らぁ! 準備はいいかぁっ!! 現時刻を以て作戦を開始する! 戦闘班! 遠慮は要らねぇ! 彼奴らが間合いに入り次第、最大火力をぶちかましてやれぇっ!!」
『おおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!』

 力強い鼓舞に、戦闘班も、釣られてバックアップ班の僕たちも、一気にボルテージを上げていく。
 続いて、バサリと羽ばたきのような音が一つ聞こえて、上空に何かの影が現れる。見上げると、そこにいたのは――

「それでは、これより本作戦の陣頭指揮は私が行います。各班はパーティー単位で私の指示に従うようにしてください」

 ――翼を広げて空中に浮いたジャスミンさんの姿だった。
 ただ、その声は彼女自身と同時にそれぞれのオーブからも聞こえてきていた。声と同時に、オーブに刻まれた魔法陣だけがほんのわずかに光っていたので、これもオーブの機能の一環ということらしい。なるほど、空を飛べるデーモン族のジャスミンさんなら、上空から戦場全体を把握しつつ、この機能で適時直接指示が出せるってことだね。
 僕たちプレイヤーにはこのオーブからの音声はシステムメッセージとして流れてくれているから、見逃すこともないだろう。

「見えてきたぞーっ!」

 壁の上に陣取った遠距離組の誰かが叫ぶ。
 後方の地上にいる僕たちにはまだ何も見えてないんだけど、防壁の上からはもう敵の群れが見えているみたいだね。
 いよいよ戦闘開始だ。さぁ、頑張ろう……!


戻る