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note.208 SIDE:G

 1時間の休憩タイムが終わって、再びバックアップ班として戦場の後ろで待機する。
 戦況は……あんまり1時間前と変わってなさそうだね? 相変わらずウルフにゴブリンが乗っかったレッサー・ゴブリンライダーが主戦力で、たまにメイルピッカーが混じって吶喊してくるぐらい。ただ、スタンピードの本隊であるティッサ森の魔物たちが近づいてきてはいるのか、明らかにメイルピッカーの頻度が上がっていたり、たまにちらほらとセブンスターやプリズムバグなんかの小型の虫Mobが混ざり始めていて、空を飛んでくるそいつらの対処で、最初ほど押せ押せという空気ではなくなってきているようだ。特に、魔法無効のプリズムバグが厄介で、どうしても弓手の手がそっちに取られちゃうし、こんな乱戦状態なのでうっかり魔法を撃ち込んでしまって丸ごと反射されて事故ってたり、なかなかめんどくさそうなことになっているみたいだね。
 とは言え、僕もさっきの1時間で6つもLvが上がっているぐらいだし、当然にみんなのLvも相応に上がっているだろうこともあって、Lv差のおかげでまだまだ危なげはないといった感じだね。それこそたまにプリズムバグやメイルピッカーで事故ったパーティーの援護が必要になるぐらいのもので、特段問題もなく時間が過ぎていく。

 数時間前の割と暇だった1時間の空気感を思い出してきたのもあって、順当に進めばこのまま1時間経って僕たちの出番かなー、なんて気楽に考え始めた矢先のこと。戦線に変化が起きる。

「あ? なんだありゃ?」
「な、なんかでけぇのが来たぞ!?」
「よく見て! アイツら名前に『レッサー』ってついてない! マジのゴブリンライダーだ!」
「おぅおぅおぅ、出やがったなデカブツが!」

 うん、まぁ、ただの雑魚ゴブリンすらみんなウルフに跨ってたんだから、これは予想がつく展開だったよね。親玉ももちろんレッサーじゃないゴブリンライダーとして出てくるってことぐらいは。

「あー、まぁ、ですよねーって感じ?」
「まぁ……そうだね」

 特に不思議でもなさそうにのほほんと額に手を翳してゴブリンライダーが参戦した戦場を見渡すミスティスに同意する。

「そ、そうですよね、わざわざ名前に『レッサー』って付けるからには、大ボスの『ゴブリンライダー』がいるんですよね……」

 と、おそらくゴブリンライダーの存在は知らなかったながらも、命名の法則から納得した様子の謡さんに、エイフェルさんたちも同意する。

 現れたゴブリンライダーは全部で6体。そこに、すぐさまジャスミンさんの指示が飛ぶ。

「上位個体『ゴブリンライダー』の出現を確認しました。前線班、C1、G1、L1、R1、W1、A2班は上位個体への対処を! 同じ組のバックアップ班は戦線の維持をお願いします!」
「だとよ! 後ろは頼んだぜ!」
「えぇ、任せて!」
「後ろは引き受けたぞ! お前らは存分に暴れてくれ!」
「っしゃ! 行くぜぇっ!」

 指定された班が指示通り前に出て、戦線が再構築される。

「こいつは……! なるほど、ただ乗っかってるだけの雑魚共とは違うらしいな!」
「強い……だが、俺たちの敵じゃないっ!」

 やっぱりボスのちゃんとしたゴブリンライダーは、ただ間に合わせでゴブリンがウルフに乗っかっただけのレッサーライダーとは話が違うよねぇ。前に僕たちがボスとして戦った時も、上位個体として明らかに他とは一線を画す強さだったことは覚えている。
 とは言うものの、さすがにスタンピードの影響か本来のLvからは少し上がってLv90台になっているとは言え、それだけだ。ここまでの戦いでLvも上がって、おそらく一番下でもLv120近辺にはなっているだろう今の僕たちの戦力で苦戦するような相手でもないよね。

 そう思ってたんだけど……流れが変わったのは、上空から指揮を執るジャスミンさんの追加の警告からだった。

「あれは……! 後続に更なる最上位個体の接近を確認しました。接敵予測は3分後になります。バックアップ班、総員警戒を!」

 まだ何か来るの!? 「上位」じゃなく「最上位個体」と呼んだ……。この状況でさすがにティッサ森の魔物が突出してるってこともないだろうし、ゴブリンライダーに更なる上がいるってこと……?

「まだ何か来るの!?」
「ヘッ、何がこようがぶっ倒すだけだ!」

 状況がわからないながらも指示通りにバックアップ班が臨戦態勢に移る。

「私たちも備えましょう! 支援開始しますっ!」
「私の加護もかけ直してあげましょうか」

 当然、僕たちも戦闘準備だね。謡さんとリーフィーが支援スキルと加護をかけ直してくれて、いつでも前線に出られる状態で待ち構える。
 一通りの準備が整って程なくして、

「っ……! 侵攻が想定より早い……! 最上位個体『キング・オブ・ジェネラルライダー』、接敵します!」

 現れたのは、一際大きなゴブリンライダー。ただ、ウルフもゴブリンも少しずつ普通と違っていて、ウルフの方は耳の後ろ辺りに一房ずつ後ろに長く伸びた鬣がまるでドラゴンのようなシルエットを作っている。ゴブリンの方は、王冠のつもりらしき被り物に、杖というよりはメイス的な棍棒に近い、けど一応杖として機能しているらしい先端が雑に球状になった木の棒を持っていた。これは……ウルフの方は普段だと単体でボス個体になるジェネラルウルフ、ゴブリンの方も普段は単体でボスのゴブリンキングだね……! なるほど、ゴブリンキングがジェネラルウルフに乗ってるからキング・オブ・ジェネラルライダーね。

「――! ―! ――――――!」
「ガルアアアアアァァァァッ!!」

 ゴブリンキングが何かの詠唱らしい文言と共に杖を振り掲げ、同時にジェネラルウルフが音波が可視化する程の魔力を乗せた咆哮を放つ。すると、杖からは赤い波動が、咆哮の音波は青い波動になって、戦場全体へと行き渡る。それぞれの波動を浴びたゴブリンライダーたちの動きが、それまでとは明らかに変わった。

「ワオオオォォォ――――!」
「!?」
「うおっ!? なんだ!?」

 6体のゴブリンライダーが、その音を衝撃波として戦っていたパーティーと強制的に距離をリセットしつつ、次々に遠吠えを上げる。
 何が起きたの……!? と思えば、戦場のウルフとゴブリン全部に全ステータス上昇と「統率」というバフがかかっていた。
 途端に、

「ぐっ! こいつら、急に動きがよくなりやがった!?」
「クソッ、さっきまでと連携の練度が違いすぎる!」
「ぎゃあっ!」
「うわぁああっ!?」
「チクショウ! 取り巻きが後衛から狙ってきやがる!」

 複数体がタイミングを合わせて同時に攻撃してきたり、その隙に戦術的に背後から攻撃や後衛を先に仕留めにきたり、雑魚ライダーでさえさっきまでとは段違いの連携を見せてきて、一気に形勢が逆転してしまう。

「緊急事態につき戦列を交代する余裕はないと判断、最上位個体への対応はバックアップ班で行います。ゴブリンライダーへ対応中の部隊を除いたバックアップI1からQ1班で最上位個体を対処してください! 残りの全バックアップ班は前線への応援を! 尚、損耗を考慮して、規定時間が経過した場合は戦列の交代を優先、第一防衛ラインを放棄して戦線を立て直します!」

 ジャスミンさんから追加の指示が飛ぶ。I1班……ちょうど僕たちもボス担当ってことだね……!

「あわゎ……私たちもアレと戦うんですか……!」
「ぃよ~ぅっし、ボス戦だー♪」

 唐突なボス戦に慌てるエイフェルさんをよそに、今日一のテンションで嬉々としてミスティスが吶喊していく。
 とは言え、エイフェルさんも慌てたのは一瞬だけ。

「ほら、うちらも行くよ、エイフェル!」
「わ、はい、行きましょう!」
「はいっ!」

 ミスティスの後を追うモレナさんに続いて、謡さんも一緒に最前線に飛び込んでいく。

 さて、相手が誰であれ、僕がやることは引き続いて謡さんの代わりの攻撃役としてのサポートだね。
 ここからボス戦、気合を入れて頑張ろう……!


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