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note.210 SIDE:G

 ジュエルドミネーターの支援効果で戦線にかなり余裕ができてくれたので、レッサーライダーをエイフェルさんたちに任せて、最前線でライダーキングと対峙するミスティスの下に向かう。
 とは言っても、こっちもさっきまでからすると、完全に形勢は逆転してる感じだね。

「バゥッ!」
「フン、当たるか!」

 ジェネラルウルフが飛びかかりつつ平手打ちでもするみたいに前足で薙ぎ払いにきたのを、ターゲットされたガンナーの人が後方宙返りで上空へ跳び上がって回避、その空中から斜め下に撃ち下ろす形でカウンターの二丁拳銃をお見舞いする。

 ジャンプで攻撃を回避しつつ、上空からカウンターの銃撃を浴びせるガンナースキル、ダッジシュートだね。着地までの間、任意のタイミングで銃撃を入力できるのと、その際の発射の反動で跳躍の軌道が変更できる効果があるので、今みたいに高めの角度から撃つことで空中に留まりながら単純にカウンターとして瞬間火力を叩き込んだり、低めの角度から撃つことで反動で後退して更に回避距離を長く取れたり、使い方次第でかなり応用が利く、汎用性の高い回避スキルになっている。

「シッ!」
「とっせぇいっ!」

 銃弾の雨を浴びせられてジェネラルが怯んだ隙に、いつの間にか背後を取っていたアサシンの人が、僕のステータスでは捉えきれないぐらいの超高速の連撃を一瞬で叩き込む。
 同時にタイミングを合わせて、正面からもミスティスがソードゴーレムも合わせて八連撃にしたクロッシングスイープを浴びせる。

 今のはアサシンのカタール専用スキル、ラッシュブロウだね。「H」字型になった柄の横棒部分を握りとすることで拳で殴るような動作での素早い刺突を可能にするアサシン特有の武器であるカタールを使った、超高速の九連撃。二発以上の連続ヒットを伴うスキルの中では、アサシン以外も含めた全スキル中でも始動から動作完了までの時間が最速とされる程の一瞬で九発もの攻撃を叩き込む、アサシンスキルの大技の一つだね。

 挟み撃ちでの連撃に、反撃を試みようとしたゴブリンキングも怯まされて、完全に動きが止まってしまったところに、

「だあぁりゃぃっ! どうだぁ!」

 もはや剣本体が見えなくなる程の濃密な魔力で包まれて巨大化した大剣が大上段から振り下ろされる。

 うん、まぁ、見た目通りの説明不要、力任せにありったけ魔力をつぎ込んで、力任せにぶった斬る、これぞザ・脳筋の極みみたいなウォーリアースキル、チャージアタックだね。
 これの解説は……要らないね、今見たまんまだね、それ以上も以下もないね、うん。一応補足するなら、長斧、大槌なんかの両剣を除いた長柄武器と大剣で使用可能なスキルだ。

「ていあ〜〜〜っ!」

 大剣の強烈な一撃がヒットしたところに、更に畳み掛けようとミスティスたちが殺到するけど、

「ガルゥッ!」
「わっち!」

 ジェネラルウルフのジャンプ衝撃波で止められてしまう。
 けどそれはそれで、近くにいた人たちが全員弾き飛ばされたおかげで逆に完全に射線が空いて、僕たち遠距離組が撃ち放題なんだよね。僕もちょうど魔法の射程内までミスティスに追い付けたところだし。

『「《ブレイズランス》!」』
「《アイスパイク》」
「《ウィンドピルム》!」

 僕とステラでブレイズランス、他の人からも手早く撃てる槍系魔法を中心とした斉射が飛び、バーストアローやフルバーストファイア、諸々の矢や弾丸も雨あられと撃ち込まれる。

 ウィンドピルムは風属性の槍系シリーズ中級魔法だね。ただ、風属性だけあって、刺さったところで爆発するんじゃなくて、地形や破壊できない物にぶつからない限りは多段ヒットしながら最大射程まで貫通していくのが特徴だ。

 今のブレイズランスで、ミスティスも僕がこっちの戦いに加わったことに気付いてくれたみたいだね。

「マイス!」
「ミスティス! 応援に来たよ! バフのおかげで取り巻きはエイフェルさんたちだけで余裕になったからね」
「オッケー! ほんじゃ、いつも通りよろしくぅ!」
「うん! ステラ、リーフィー!」
『ん』
「任せなさいな!」

 ミスティスに頷いて、ステラとリーフィーもいつでも僕たちを援護できる位置についてくれたところで、ここから本格的に参戦だね!

「ガルォアアァァァァァァアッ!!」

 度重なる攻勢に業を煮やしたか、ジェネラルウルフが咆哮する。

「わったっ!」
「おぉっと」
「クッ……!」

 視覚化される程のその咆哮は、音波で風の刃が周囲に生まれているらしく、ミスティスや近くにいた前衛役の人たちがそれぞれに対処する。
 その咆哮で一瞬の間が生まれた隙に、

「――! ――! ――――!!」

 ゴブリンキングが杖を振り回して、また例の火の玉が放たれる。
 とは言えこの技も二回目、わかってしまえばいくらでもやりようはあるというもので、

「だから〜、それは私には効かないよ〜っと」

 まぁ、盾のおかげで初見でも見切っていたミスティスは余裕だね。

「《エンチャントアンチファイア》!」
「よし来た、耐えてみせるっ!」
「《魔力転心》! 《魔力硬化》!」

 他の人たちも各々の方法で耐えるなり避けるなりして問題なく対応していた。

 エンチャント系の付与魔法はこのゲームにおいては周囲環境から妖精の力を借りて行うソーサラーのスキルになっている。ニアス川も程近いここでなら、火属性耐性付与に水の妖精の力を借りるのは簡単だね。

 魔力転心は、体内の魔力の操作によって体内エーテルの傾向を偏らせて、他の全耐性の低下を代償に指定した任意の属性耐性を上昇させるセージの自己支援スキル。上昇させる耐性は自由に選べるけど、「全耐性」には物理属性耐性も当然に含まれるので、敵の攻撃属性が一つじゃなかったり、属性攻撃じゃない単純な物理通常攻撃には逆に弱くなってしまう危険もあるスキルだけど、元々魔力循環によってStr、Agi、Dexを上昇させての回避主体の戦闘を得意とするのがセージという職なので、致命傷以外は回避する前提で上手く使えば高い防御効果を発揮してくれる。

 魔力硬化は、循環させている体内の魔力を瞬間的に限界以上に増幅させて流すことで、魔力の鎧で生身のまま物理と魔法両方の防御力を引き上げるスキル。瞬間的な防御性能はものすごく高いんだけど、限界を超えた魔力量を無理やり循環させる代償として、発動させ続けると1秒ごとに1%ずつHPが失われていくので、発動を1秒以内に抑えるために本当に被弾の一瞬だけ瞬間的に発動させるタイミングにコツが要る、ピーキーな防御スキルだ。

 回避に徹した人たちは地面の炎上で近づけなくなってしまったけど、ミスティスを始め、防御で受けきれた何人かは即座に反撃に移る。

「だぁぁぁらっ!」
「《魔力創刃》! はぁっ、やっ!」
「捉えた!」
「ほぉい、さっ!」

 耐性付与をもらって耐えきったガーディアンの人が、魔力を纏わせた大楯の縁を刃として斬りつけるシールドエッジから、ピアシングスラストに繋げて吶喊する。

 魔力創刃は、魔力の循環経路の一部を身体や武器の外にはみ出させることで、任意の場所に任意の形で魔力の刃を生み出すセージスキル。身体や武器のどこからでも刃を出せるから、杖術の多彩な構えに合わせて疑似的に武器を切り替えるように変形させたり、肘鉄の時に肘の先に棘を生んで体術を不意打ちの刺突攻撃にしたり、使い方次第で無限に応用できる、魔力循環と並ぶセージのメインスキルの一つだね。
 この人はどうやら杖に十文字槍みたいな穂先を生み出して使っているらしい。

 そして、こちらはおそらく後退ではなく前に飛び込むことで回避したのだろう、またいつの間にか接敵していたアサシンの人が、フィギュアスケートみたいなスピンジャンプを決めて、連続回転斬りを叩き込む。
 身体を倒さない横回転スピニングブレイドとでもいうようなアサシンスキル、スピナースラッシュだね。

 最後にトドメとばかりにミスティスがウルヴズファングも使ってのダブルピアーシング。
 そこに更に僕たち遠距離組が魔法やら矢やらで畳み掛ける。

「――――!?」
「ガアァッ! グルルルル……」

 さっきまでと明らかに形勢が変わって、ゴブリンキングは理解できないというように慌てる様子を見せ、ジェネラルウルフも苛立たし気に唸り声を上げる。
 そこへ、

「隙ありね!」
「!?」
「キャウゥン!?」

 リーフィーが真下から根っこを召喚して、ライダーキングを諸共盛大に打ち上げてしまう。
 真下の腹側は基本四足の獣にとっては最大の弱点だもんねぇ。ジェネラルウルフが子犬みたいな悲鳴で吹っ飛んでいったのも無理もない。

「――!? ――!?!?」
「ギャンッ!」

 結果、ジェネラルウルフが先に落ちたゴブリンキングを下敷きにしてしまい、更にはそのまま気絶してしまって、ゴブリンキングも身動きが取れなくなってしまう。
 これは大チャンス!

「ナイス、リーフィー!」
「ふふん、当然なのだわ」

 こうなったら、周りのみんなも全員で袋叩きだよねぇ。

「今だ、かかれぇっ!」
『うおおおぉぉぉっ!』
「――――――!?!?」

 なんというか、逆にかわいそうになるぐらいのフルボッコを喰らって、ゴブリンキングがもはや声になってない悲鳴を上げる。

 ただ、さすがにこれだけボコボコにされれば気絶してようが叩き起こされるというもので、

「ギャフア!? グル……ガアアアアアァァァァッ!!」

 目を覚ましたジェネラルウルフが咆哮する。

「うわぁっ!?」
「おっとぉ?」

 その咆哮は衝撃波になって、周囲の全員を、とりあえず近接攻撃は届かないぐらいまで一息で吹き飛ばしてしまう。
 それによって生まれた隙にジェネラルウルフは跳ね起きて完全に体勢を立て直し、水を払うかのように全身を一度震わせると、そこへ再びゴブリンキングが飛び乗る。
 続けて、

「ワオオオォォォォォォ――」
「――、――、――――!」

 ジェネラルウルフが衝撃波を伴った遠吠えで接近できないようにしながら、ゴブリンキングが何かを詠唱する。
 と、

「あーっ! アイツ、回復してやがる! させんな!」
「撃て撃て!」

 4割半ぐらいまで削ったライダーキングのHPゲージが5割まで回復してしまった。見た目でも、大きく穴が開いてかなりの量出血していたリーフィーの根っこでの腹部の傷も、血が止まる程度には回復してしまっているようだ。
 僕たちも含めて遠距離組で回復を阻止しようと斉射が飛ぶけど、

「なっ!?」
「ちくしょ、あの遠吠え遠距離も弾きやがる!」

 遠吠えの音波がバリアみたいになっていて、全部掻き消されてしまう。
 あー、ただ、これ……うん、僕以外にも察した人はいたみたいだね。

「あ、これHP50%トリガーだろ。妨害できねぇタイプの」
「そーいうことかよ。チッ、めんどくせぇな」

 うん、これは多分、HP50%で発動する大技の予兆っぽそうだね。HPが回復したのがぴったりゲージ半分までというところでなんとなくの察しがついた。
 となると……さて、次に何をしてくるのかだね……!


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